日中、あまりの暑さに倒れそうになる。
山道を走っていると道路脇に小さな商店が目に入った。
まだ小学生高学年くらいの女の子が軒下にちょこんと腰掛けて店番をしており、店の脇には川か、湧き水から引いて来たホースの水が止め処なく流れ出している。
自転車を止めて、店番の少女に
「 この水を使っていい?」
かと素振りで示す。
少女は少し驚いた顔をしたが意味が通じたのか「うん」と小さく頷いた。
冷たい水が気持ちよく、タオルを水につけては何度も顔をぬぐった。
すると店の奥から父親らしき年代の男性が現れ、頭をくしゃくしゃと掻き毟る仕草をする。
つまり「この水で頭も洗ったらどうだ?」と言うことだろう「おおっ、そうですか」とばかりにホースに頭を近づけて洗い出す。
それを見ていたお父さんは一旦奥に入り、一回用使い切りのシャンプーを持って戻って来た。
その封を開け「ほら手を貸せ」と言い、差し出した私の手の上にそのシャンプーを押し出してくれた「なんて親切な人なんだ!」ほんのちょっとの心使いが嬉しい。
頭を洗い終えると「体も洗うか?ならばこっちに来きなさい」と店の脇から家の裏へ手招きする。
そこには大きな水ためと手桶があった。
ここでは暑いので水で体を洗うのが習慣のようだ。
手桶に水を汲んでは掛け体を洗う「洗濯もしていけ」とばかり洗剤を出してくる。
もう至れりつくせりである。
ちょうどズボンもシャツも汚かったので手もみ洗いで身に着けているもの全てを洗わせてもらった。
この暑さなら、一時間もせずに乾くだろう。
さっぱりして先ほどの店先に戻る。
日本で貰った「アジア語の本」を見ながらベトナム語、日本語を教え合っている内にあっという間に時間が過ぎ、洗濯物もほぼ乾いた。
体も久しぶりに洗え、そのうえ洗濯したての衣類を身に着けるとかなり爽快だ。
お父さんと娘に覚えたてのベトナム語「カムオーン」とお礼を言い、丁寧に頭を下げ「いざ出発」という時にお父さんが申し訳なさそうに手を出してきた。
見ると指を二本立て、封を切ったシャンプーの袋をもう一方の手で持ち上げる。
「あれ?」と思うが、これは「シャンプー代をくれ」と言うことなのだろう。
指2本はピースサインじゃなく2000ドン(16円)の意味なのだ。
「それっておじさんが、勝手に持ってきて封切ったじゃ」と突っ込みたかったが、なんせ言葉も通じない。
体も洗い、洗濯して確かに色々とさせてもらったけど、それもすべてお父さんが「こっちだ、こうしろ」と誘ったものだ。
最後に「シャンプー代くれ」で一気に目が覚めた。
ここで「風呂代」「洗濯代」と言われても何も言い返せない、自分がいる。
たまたま今回は2000ドンだったけど「最初にお金が掛かるか確認せねば迂闊に親切を受けられないな」そう肝に銘じさせる出来事であった。
そんなことを考えながら、進んでいくと、また、民家の奧のほうから、「こっちへ、こっちへ」と手招きするおじさんが・・・ちょうどお昼時だった。
また妙にひとなつっこいおじさんでこっちに座れ、「どこからきた??」とか色々話してくる。
「日本人」でハノイを目指していると伝えると妙に「そうか、そうか」と納得してくれ、「まぁ、飯でも食っていけ」とちょうど準備中だった、食卓に私を加えてくれる。
「むむっ、この状況は、嬉しいが・・やたら親切だし、まさか食べた後に昼飯代払え」とか言われるのでは・・・と先ほどのことを思い出しつつ、「お金はかかる??」と聞こう、そう思った。
「お金がかかる?」
はなんて言えばいいのか分からないので紙に「0ドン?」と書いて渡すとおじさんは笑いながら
「ハッハッハッー当たり前だろう」
とそんな笑いをした。
ここで初めて「いいんだ、親切心なんだ」そう思い、落ち着いて食卓に座らせてもらった。
初めてのベトナム家庭料理、「どんなだろう?」と思っていたが、以外にも日本食に食材もにている物だった。
鶏肉、たこを使った料理でつけるたれみたいのが塩辛く、それをおかずにご飯を食べる、おじさんこれまた親切でおかずをわざわざとってくれる。
「いやいやほんとに親切過ぎるな~」
そう感じるくらいだった。
「なんか落とし穴が・・・・」
と思ってしまうほどだったが、何事もなく、お昼をごちそうになっただけで本当に何もおこらなかった。
「ただ、旅行者がめずらしかったのか・・・?」今度は何事もなかったので「あの親切心はなんだったのだろう・?」不思議な疑問が残っていた。
お金を取ろうとする人もいれば、本当にただ親切な人もいる・・・疑問を抱きながら自転車をこいでいた。
おじさん達は「こっちこい」をよくしてくれるが、少年、少女達は「ハロー、ハロー」と呼びかけてくる。
最初は中国ではなかったことなので新鮮に感じ「ハロー、ハロー」と挨拶していたが、数が多いのと、暑さでバテるので会釈、とか、手を挙げるだけに変わっていくのだった。
今日も晴れで、山道が続く、山がつづく中国の福建省に比べると小粒な山が多いので。
勝手に「リトル福建省」と名をつけてみた。なかなか手強い「リトル福建省」。