天候待ち

高度順応の行程を何とかこなし、一旦、高度の低いペンボチェまで降りて数日を過ごした。

さらに3000m台のタンボチェまで降りると、あたりは青々と木々が茂り、路上には色とりどりの花が咲いていた。

ペースキャンプの様な岩と雪のモノトーンの世界から降りてくると、木の緑や花の色が新鮮なものに写り、大げさだけど、おとぎの国に来てしまったかの様だ。

【写真】標高3000m台まで下りてくると緑が眩しい。
【写真】標高3000m台まで下りてくると緑が眩しい。

再びあの地の果ての様な世界に戻ると思うと少々気が重い。しかし高度順応も終わり、これからが本番だ。

ベースキャンプに戻ると、こちらは5月だというのに雪が舞っていた。山頂を目指した登山に入るためシェルパ頭が計画を説明してくれる。

【写真】エベレストベースキャンプに戻る道。
【写真】エベレストベースキャンプに戻る道。

・第一日目はベースキャンプを出発、キャンプ1を通過し、キャンプ2まで一気に上がる。高度順応が終っている今、キャンプ1に留まる必要はないとのことである。

・第二日目キャンプ3に移動。キャンプ3で泊る。

・第三日目、キャンプ4であるサウスコルに移動、ここでは数時間体を休める。

・第四日目、夜中に山頂に向けて出発、夜明けに登頂し、その日の内にキャンプ4に戻って来て泊まる。

・第五日、第六日の二日間でベースキャンプまで降りてくる。

という計画だ。

高度順応を抜けばエベレスト登山は上手く進めば6日で山頂まで登って降りられるのだ。

しかし「上手く進めば」というのがカギで、実際には好天が6日も続くことは珍しい。

つまり、行程のどこかで雪が降ったり、風が強くなったりしたら、その日は行動が出来ず、テントに停滞になるかもしれないし、吹雪になれば下山を余儀なくされるかもしれない。

上の行程はあくまでも人間側の都合で、自然はそんなに都合通りに事を進ませてはくれない。

この行程を進めるのに重要になってくるのが「天候」である。

衛星電話やインターネットが存在する以前はシェルパの経験からくる「天気予報」をモトに登山が始められたが、現在では衛星電話やインターネットの情報から大気の状態を見て、行動を決める。

インターネットはこんな山奥の登山にまで影響を及ぼしているのだ、文明の利器とは侮れない。

しかしどんなに情報伝達手段が発達したと言っても、「予報」は予報である、100%的中と言うことは無く、こと、山岳部の天気に関しては雲の動きが早く、予報は難しいらしい。

とりあえずの目安になるぐらいだ。

この時期登頂を目指す登山隊は天気予報に耳を澄まし、自分達の行動予定を考えるのだ。

近年では殆どの隊が、それぞれ何らかの外部との通信手段を持っており、様々な天気予報がベースキャンプ内を駆け巡る。

シェルパはネパールの天気予報を、ある隊はアメリカの天気予報を、ドイツ、スイス、イギリス、と言った具合で、出所の違う天気予報情報が乱れ飛ぶのだ。

結果が皆一緒であれば、迷うことなどないのであるがそんなことは稀で、1日、2日前後予報がずれるから面倒なことになる。

こういった情報氾濫の中では、どの情報を信じるかで結果が大きく変わってしまう。

特にエベレストの登山では、天候の良し悪しが登頂出来るか出来ないかにかかわってくる。

よくよく考えると、どの国のどこの天気予報を信じたらよいか、ますます判断しにくい、もはや一種のギャンブルと言ってもよい。

最終的にはシェルパ頭が決定するのだけど、私達隊員もそれぞれ得た情報を主張するので大変だ。

私の隊で言えば、スティーブはアメリカの天気予報が一番だと思っているし、ジョセフは友人の勤めているドイツの気象庁が正確だというし、私は日本のチーム本多が日本から取り寄せている天気予報が一番信頼できる。

一昔前ならシェルパ頭が「雲を見て」「一週間天気がいい」と予測しすれば、皆がおとなしく従ったのだろうが。情報があふれ出すとかえって混乱するものだ。

さて、どうなるか。

【写真】いよいよエベレスト登頂が始まる。
【写真】いよいよエベレスト登頂が始まる。
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