サウスコル

 岩場を進んで行くとテントが見え始めた、サウスコルにある標高8000mのキャンプ4だ。

 サウスコルに着いたが我がチームのテントは無く、これから作るのだという。

強い風が吹き荒れていて、台風みたいだ。酸素マスクを外してみる、ゆっくり動けば酸素が無くても大丈夫そうだ、しかしここは標高8000mにもかかわらずゴミが多い。

 シェルパが設置してくれたテントにもぐり込む、パサンが雪を溶かしてスープを作ってくれた、夜に供えて横になりたかったが、このテントは3人には狭い。

 エベレストの方から人がポツポツと下って来るのが見えた。きっと登った人達だろう。今日、風さえやめば「俺達だって」と思いつつテントに3人横になった。

ところがテントの打ち付ける風が強く、眠るどころではない。四方八方から狂ったような強風が吹きつけテントを打ち鳴らす。

「本当にこの風は止むのだろうか?」

風が止まなければアタックを仕掛けることができない。バタバタ止まない音の中不安になりながら、とにかく体を休めるように目を閉じてその時を待った。

 7時になった。しかし風は弱まる気配もない。ここまで来て、最後の「天気」で駄目なのか?昨日登った人の話では8時には風は止んだという、今日は8時になっても風は弱まらない、チーム本田の天気予報では夜中過ぎで風は止むと言う。それを待つしかないのだ。

風の音をよく聞くといくらか弱まった気もするが、それを打ち消すように突風が吹いたりする。雲も分厚く星も見えない。もう待つことしか出来ないのだ、ただ横になって待つ、ひたすら待つ。

 日が暮れてテントの中は暗くなった。風は以前止まない。

 9時を回ったところ「Japanese」「何とか」と外から声が聞こえた「日本人に何かが起こったのか」と一瞬思った。

 しかしそれは違うことがすぐに分かった。隣で横になっていたティンリーが起き上がり「出発だ」とライトをつける。

 風はまだまだ強いが、風が止むと見越してなのだろう。外に出ると雲が晴れて星空一面に広がっていた。今までに見たことのないような数多くの星が空を埋めていた。

 行く時が来たのだ。

 ライトを準備し、酸素マスクを付けダウンのスーツを着ると、素早い行動はできない、これにアイゼンを付けたら、ゆっくりにしか動けなくる。

 チーム本田のテントに出発しますと伝え、借りていたガムテープと薬を返す。アイゼンを付けてボンベを背負う。そしてジョセフに借りた手袋を着けると手も器用に動かせない。

 先を行くティンリーの後ろを追うよう進む、上方にライトがチラチラ見える、既に出発した隊があるのだ。ティンリーは道が分かっているのかの様に迷わずに進んで行く。上空の星以外あたりは暗闇に包まれていて、ヘッドランプが照らす僅かな部分だけがかろうじて視界に入る。

 しばらく平地を歩くと固定ロープが出てきた、大きい手袋だと器具の付け替えが面倒でやりずらい、なんとか付け替えてはティンリーの後を追う。ライトが上方で蛍の光の様に揺れている、とにかく「上へ」。

【写真】サウスコルから見上げたエベレスト山頂。
【写真】サウスコルから見上げたエベレスト山頂。

 ヘッドランプに映し出される雪の中に足をゆっくりと進む。

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