初めてサム達に出会ったのは名もないような小さな街だった。
会った街から彼らは南に向かい、私は北に向かったのでもう会わないかと思っていのだが、サラから再び北上を始めるという連絡が来た。私がゆっくりしていれば追いついて再会できるかもしれない。
フィレンツェでゆっくりしていたら予想通り、彼らから「近くの南西の街に着いた」と連絡があった。南西と言っても山脈を挟んだ南西で距離は100km以上はある。彼らはフィレンツェには既に寄っていたので会うのは難しいかなと思っていたら、その数日後彼らはわざわざ山を越えてフィレンツェまで来てくれたのだ。嬉しいのだが、どうしてそこまでして会いに来てくれるかが少々疑問だった。
無事にフィレンツェのリパブリック広場で再会を果たし
「なぜ、そんなにまでして会いに来てくれたのか?」
と聞くと、
「私達も路上で芸をしながら旅行をしようと考えている、路上で芸をすることに興味があるので、どんな芸をしているのかが見たい」
とのことだった。それでわざわざ山脈を越えて会いに来てくれたというわけなのだ。この日は平日であまり路上の芸には向かないのだけど、折角来てもらったのだやらないわけにはいかない。彼らの期待にそえるかどうか分からないが始めることにした。
土、日に比べると人は足を止めにくいがそれでも何人か子供連れが止まってくれてコインを入れてくれた。するとサラさん達も路上で芸をやってみるというのだ、私は暫くしたら探しに行くと約束をして分かれた。
早々に手品を切り上げ、サラとサムを探す。「ポントベッキョ」と呼ばれる、フィレンツェの観光名所で彼らが演奏しているのを見つけた。サムさんがウクレレを弾き、足でタンバリンを鳴らし、歌を歌う、サラさんがそれにあわせて、ピアニカで演奏し、時々歌をあわせる。
ウクレレとシンバルのリズムが心地よく、サムさんの声も合っている、なかなかのものだ。聞くと彼らはイギリスの路上でも時々歌を歌っていたとのことだ、どうしなかなか慣れた様に見えたわけだ。
私は一泊14ユーロの安いキャンプ場に泊まっていた。サムさん達にどうするか?と尋ねると郊外で野宿するという。聞くと、最後にお金を払うキャンプ場に泊まったのは以前フィレンツェを通過した数ヶ月前が最後だそうだ。
私もお金をかけない旅行をしているつもりだが、彼らの方が上手である。一体彼らの旅行はいつまで続くのか。