中国式

今日は朝7時半にベネチアに向かった。

なぜかと言うと「カーニバル」中の路上芸の許可証の申請が行われるからだ。この申請は1月31日から2月2日の3日間だけ行われ、申請者の人数制限がある。

「カーニバル」中は凄い人出が見込まれるために、様々な所から芸人が集まってくるらしい。とにかく申請に人数制限がある以上できるだけ早く申請を出したいと思う。

許可申請の役所が開くのは9時、まぁ8時半に行けば大丈夫だろうとタカをくくりメストレを出発、役所を目指した。

ところが役所への最後の角を曲がって愕然とした。既に人だかりが出来ていたのだ。「がーん。(古い)」ゆったり国民性のイタリア人が役所オープン30分前にこれほど集まるとは全くの想定外。ざっと見ても既に50人はいる、芸人の定員は70人だ、ぎりぎりか。しかし皆この寒い日に一体何時から待っているのだ。

せっかくここまで来たのでその群集の後方に着く。人々は入り口の前にいるが列になっていない、何かの順番を待つのならきちっと列になるべきだ。そうしないと役所が開いた瞬間に人が雪崩れ込み、順番も何も無くなってしまうからだ。

「中国式?」ふと思う。中国では列と言うものが存在せずに、開始時間になったら我先にと窓口に辿り着いた人から権利がある。完全に弱肉強食、秩序無し、飛び込んで行ったもの勝ちだ。

すっかりイタリアでは列を守り順番通りに進んで行くのかと思ったが、それは違うようだ。しかし逆を言うとこれはチャンスなのだ、例え遅く来ても、飛び込みグチャグチャスタイルなら今までの遅れも取り戻せる、「役所が開いた瞬間が勝負だ!」と密かに闘志を燃やし、なんとしても入り込もうと体制を整えた。

そして9時、役所の扉が開き、係りの人が顔を出したのが見えた。「いよいよか」ここで穏やかに会話をしている人々がいつ真剣に窓口に押し寄せるのか、遅れを取らないように構える。9時近くになると更に人が増え始めた。

入り口に立った係りの人が早口のイタリア語で何かをいい集まった人が「おおっ」と声を上げた、「いよいよ修羅場が始まるのか」私は靴の紐を締めなおし、背中に背負ったバックの紐も締め上げた。準備万端だ、さぁ勝負、いつでも来い。

すると係員は大きな声で名前を呼び始めた、それに呼応して群集の中から「クイ(ここ)」の声と共に手が挙がる。その手に係りの人が手渡しで小さな紙を渡している。名前が次々に呼ばれていき、呼ばれた人は小さな紙を手渡されてオフィスに入って行く。

「あれ?何?どうなってんの?」

と私は呆然としてひたすら待ち続ける、やがて先ほどの群集が殆どの名前が呼ばれ人が少なくなってきたので少し入り口に近づいた。

まだ名前を呼ばれていない人を少々掻き分け入り口の前まで来ると。

目に入ったのは入り口の脇の壁に貼り付けられた「カーニバル芸人順番表、来た順に名前を書いてね」と大きく書いてあり、脇にボールペンがぶら下がっている。

「はっ!何これ!」この紙を見てようやく謎が解けた、ここは中国式ではなく、先着順に名前を書いていく方式だったのか、それに気が付いてあわてて名前を書いたが既に155番目。すぐに気が付いて記入していれば50番くらいだったろうに。

「マンマミーヤ!(なんてこった!)」

【写真】列にならない群集を見て「中国式か!」と思ったが。
【写真】列にならない群集を見て「中国式か!」と思ったが。

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