「フィレンツェにいたよね?」目の前にやって来た男性は英語でそう話しかけてきた。
「はい、確かにいました」
と男性の顔を見ながら返事をする。今回はすぐに分かった、路上でギターを弾いていた男性だ。
「ここを拠点にしているの?」
と質問されたので、
「いや、旅行しながら芸をしているのです」
と簡単に状況を説明した。フィレンツェにいた時、彼のギターはあまりにも上手だったので
「路上にはもったいない」と思った程だ。そのせいで印象深くよく覚えていた。
彼はタデスさんと言う路上のギターリストで出身はポーランド、路上でギターを弾き始めてもう12年になるという、かなりのベテランだ。タデスさんはギターに合わせて歌うタイプでは無くギターのメロディを奏でるだけの演奏者だ。
路上のギターリストといえば、勢いよく、アップテンポな曲を歌うというイメージがあるが、タデスさんのギターに歌は無く、メロディだけを奏でてしっとりとした曲が多い。ギターもアコースティク型のギターではなく、クラシックタイプのギターを指でつまびく。
彼はフィレンツェを拠点にしているのだが、カーニバルのこのベネチアに来たとのことだった。フィレンツェにいる時に彼の演奏しているオリジナルのCDを買おうと思って買えなかったのを少し後悔していたので嬉しい再会だ。