ベネチアの奇跡

先日ベネチアの路上で会った現地在住の日本人の方に、耳寄りの情報を教えてもらった。
なんとベネチアには「納豆」を売っているお店があるというのだ。「えっ、納豆を売っているお店があるのですか?」と聞き返してしまったが、「ある」というのだ、しかも「日本の納豆」。

そんなお店があると知ったら行かないわけには行かない、早速教えてもらった「ローマ広場」に出向いたのだが、お店が見つからない。広場の近郊と聞いていたのだが、ローマ広場は車の乗り入れが禁止されているベネチアの入り口にある、バスの発着する広場。広場の東西南北を歩きまわったが、それらしきお店は見当たらない、地元の人に聞いても「そんな店はない」といわれてしまう始末。結局この日は見つけられなかった。

そして先日、再び在住の方に今度は地図で説明してもらい、ついに本日そのお店を発見することが出来た。このお店、看板が一つも無く、黒いガラスのショーウインドで一見すると商店には見えない。確かにこの店の前を通過していたが、まさかここがお店とは。よく注意して店を覗き込こんで始めて商店だと分かる店構え、もはや口コミでしか店を探しあてられないだろう。こんな寂れた裏通りで、黒いショーウインドウと言う時点で商売繁盛を放棄した様にしか見えない、全くやる気が感じられない。ひっそりと隠れたようにあるが、もしかして見つかってはまずいとか、別の理由があるのだろうか。

この隠れ家ような店内に勇んで足を踏み入れると、暗い外観とは反対にアジア系の女性が笑顔で「ボンジョルノ(こんにちは)」と出迎えてくれた。「おおっ、ボンジョルノ」。店内には所せましとダンボールが山済みになっていて、商品整理の最中のようだ。お目当ての品は決まっていたので「納豆ありますか?」その女性に尋ねる。「はい、ありますよ」との返事しながらレジにいた女性は立ち上がり、狭い店内にどーんと置かれた冷凍庫の扉を開けた。

冷凍庫のガラスの扉をのぞき込むとすぐに、赤い背景にオカメの顔が描かれている「おかめ納豆3パックセット」が目に入った。「おおっ、これだ、これだ!」と興奮しながら「いくらですか?」と尋ねると、「3.9ユーロ(430円)」。「ううっ、日本に比べるとだいぶ高い」しかし異国の地で納豆が食べられるチャンスは早々ない、前回食べたのはいつのことだ、もうはるか昔で覚えていない。頼りない記憶を辿ると、食べてました、約一年前の在住の方にお世話になった時に。

とにかく1年に一度めぐり合えるか、あえないかという貴重なものなのだ、少々高いが、納豆のネバネバした誘惑に負けて購入。この時から今日は納豆ご飯にすることに決めた。熱々のご飯に納豆、日本にいたら日常だけど、それが異国では夢の組み合わせになるのだ。「ねぎなど刻んで入れてしまおうか。」もう興奮しすぎて鼻血がでそうだ。

夕食早速ご飯を念入りに炊き込み、納豆のパックを開け、付属のしょうゆとからしを混ぜる。この何気ない動作が懐かしい。それをご飯の上にのせる、湯気に包まれた納豆が、輝いて見える、口の中に唾液が大量分泌、体が欲しているのだ。「いただきまーす!」箸で、口にかきこむ。「むぅうううっ。」噛み締めるたびに納豆独特の味が口の中に広がる。「懐かしい味だ」うまいというよりも懐かしい味だ。それからはひたすらにご飯を多め、納豆少量を無心で食べ続け、気が付けば納豆ひとパックでご飯を4杯も食べてしまった。

さすがに食べ過ぎた、う~ん苦しい。空になったパックを見ながら何だか幸せな気持ちになった。満腹、満足。

【写真】まさかのベネチアの奇跡。
【写真】まさかのベネチアの奇跡。

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