西友とウクライナ人

相変わらず路上で芸をしている、芸はわずかな収入をもたらしてくれるだけではなく、様々な人との出会いももたらしてくれる。思い返すと出会いの殆どは路上で芸をしている時なのだ。私の芸は手品だけど、手品がもたらしてくれるのは人との出会いのマジックだと常々思っているし、飽きずに旅行を続けていられるのも、出会いが多いというのも大きな要因になっている。

先日も芸をしていると一人の金髪の若者が「日本人ですか?」と流暢な日本語で話しかけてきた。ベネチアには日本語を話す学生が多い、なぜならベネチア大学に日本語学科というのがあるからだ。日本語が流暢なので私は「はい」と返事をしながら、ベネチア大学の学生なのだろうと咄嗟に思った。

「その手品はどうやっている?」と彼が質問してきた、私も手品をやるものの端くれなのでタネは教は教えられない。「秘密があるのですよ」と答えると「ふーん」と彼はちょっと不満そうな顔をした。

「ベネチア大学の学生?」を今度は私が質問をすると、「いえ、違います」と彼。すっかり日本語学科の学生だと思っていた私の予想は見事に外れていた。次の会話は当然「どうしてそんなに日本語が話せるのか?」という話になった。「独学です」という言葉が彼から返ってきた。

「独学です」と言う単語を知っていたのにももちろん驚いたが、それ以上に彼が日本語を学習し始めてからまだ1年と言うことにさらに驚いた。少なくとも日本人は英語を中学生で3年は勉強するが彼の様に英語を話せる人がいるかといえば皆無だろう。そう考えると彼は日本語の学習一体どれだけの情熱を注いでいるのだろうか。

話の流れはもちろん「なぜ?」に向かった。彼の日本語学習の意欲をここまで駆り立てるのモノはいったい何なのか俄然興味が沸く。それは日本の伝統文化なのか、はたまた近代のテクノロジーなのか、いや、あの世界に類を見ないような日本食への憧れなのか?若い彼の情熱の全てを傾かせる要因はなんだ

しばしの沈黙の後、彼の口から「セイユウです」という言葉が発せられた。発せられた言葉が全く持って予測していたものだったので一瞬混乱するが、頭の中で理解しようと試みる。

「セイユウ?」ってあの「西友デパート?何?デパートに就職したいのだろうか、それとも物流に興味があるのだろうか?」セイユウという言葉からは私が推測できるのはこれくらいしかない。もしかしたら西友デパートにはウクライナ人を引き付ける強烈な魅力があるのかもしれない。

私は一瞬間をおいて「しかし西友ってデパートの?」と彼に疑問をぶつけると、すぐに彼が「えっ、デパートってナンですか?、セイユウです。アニメのセイユウです。」

「ああっ、アニメの声優さんね!」セイユウを聞いてデパートを思い浮かべてしまった自分が少々恥ずかしいがそれはうやむやにして、「そりゃ凄い!」と話を合わせた。

何でも日本のアニメが大好きで、自分はその声を担当したいと思ったのだそうだ。彼の日本語を聞いているとその熱の入れようが本気なのが分かる。彼はまだ19歳、もしかすると将来ウクライナ出身の声優さんが誕生するかもしれない、今から楽しみだ。

【写真】日本のアニメは外国でも大人気
【写真】日本のアニメは外国でも大人気

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