15 イタリア回遊編

古典楽器を奏でる男

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 ギターとも違う見慣れない奇妙な楽器を演奏しているのを見たのは2月のカーニバル中のことだったと思う。

 すっかり日も暮れ完全に暗くなり、気温も下がり帰路を急いでいる時だった。観光名所の一つであるリアルト橋を渡っている最中、橋の最上段の軒下でのこと。

 その楽器はギターの様な弦楽器なのだけど、ギターで言うボディの部分が円形で丸く、弦を張る頭の部分がギターよりも大きく龍の頭が飛び出た形に見えた。

 路上で演奏する楽器は竪琴やバグパイプ、ワイングラスピアノなど様々なものを見てきたつもりだが、その楽器は始めてだった。

 音色は弦楽器なのでギターに似ているが、ギターよりも高音色の幅が大きく、豊かに聞こえる。奏でられている、どことなく中世を思わせる響きがする。

 それからしばらく経ったある日、区役所に許可書を取りに出向いた時に、大きな楽器ケースを抱えた男が階段から降りて来た。ここに楽器を持ってくるのは路上の芸人以外にいないので、

「あなたも許可を取りに来たのですか?」

と話しかけた。彼は

「そうだよ、君も?」

と聞き返してきたので会話が始まった。

「その大きな楽器は何ですか?」

と訪ねると

「リュートと呼ばれる古い楽器さ」

と言う、それでピンと来た、以前リアルト橋で見かけたあの楽器だ。演奏者の顔よりも、楽器の形の方が印象深かったので、楽器の形を聞いて、始めて奏でていたのが彼だと分かった。

私は右手を出しながら、「イワサキです」と名乗ると彼は「ベンツだ」それから「ハンガリーから」と付け加えた。ハンガリーは縁あって、しばし滞在したので思い入れがある、それだけでその地の出身者には親しみがいてしまうから不思議だ。

 大抵路上の芸人が出会うと話すことは決まっている、

「今までどんなところでやってきたか?」
「どこがよいか?」

など、ベンツさんとの会話で面白かったのが、日本人の芸に対する反応。実はこれは今まで色々な路上の芸人にも言われていたのだが、ベンツさんは特にストレートに聞いてきた。

「日本人は写真を撮るけどお金は入れないね」

それは私も以前から感じていたことだけど、日本ではヨーロッパの様に路上の芸人には投げ銭をする習慣がないからとしか説明のしようがない、他にも色々と理由は思いつくけど、それが一番大きな理由じゃなかろうか。

ベンツさんは「そうなのか」と言いながら「ふーん」というような顔をした。

 これを期に路上でベンツさんを見かけると、演奏の合間を見計らってよく話をした。彼は古典の楽器を弾いているので少し古風で控えめなのかと思うのだが、性格は陽気でよく喋る。
 
 もしベネチアに行き、夜のリアルト橋上で古風な楽器を演奏している人を見かけたらそれは間違いなくベンツさんだ。

【写真】リアルト橋の上でリュートを演奏をするベンツさん

【写真】リアルト橋の上でリュートを演奏をするベンツさん


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