昨日の味方は今日の敵


「ゴーゴーブーラ!」と奇声を上げながら、季節風のブーラに背中を押してもらい時速20km以上で調子よく飛ばした。

 翌日、ポールの旗が昨日と全く反対向きにバサバサと音を立てている。「げっ、プーラって北から南向きじゃないの!?」しかし、まぁ地形が入り組んでいるから風向きも変わるのか。「なんだなんだ昨日の味方は今日の敵か」いつもより強めにペダルを踏み出す。

 背中を押してもらっている時はその存在をあまり意識することはないが、向かい風になるともう嫌でもその存在を意識しなければならない。もうあまりにも抵抗が多すぎて時速10kmもでない。「ううっ、試練だ、試練」と全身を振り、荒っぽく足に力を込める、まぁ、よりによって今日は山岳部だ。

「ポッッ」顔に冷たいモノが当たり始める。向かい風だけで十分つらいのに、雨かっ!しかも風に乗って勢いがある、横殴りにではなく、正面殴りの雨。バチバチと顔に当たると痛い、目に入るので前を向いていられない。山間の道なので雨宿りできるところも無い。「なんじゃこりゃ!」と唸っていると急斜面が始まった。ぐえっ。向かい風で雨で、坂道なんであまりにもひどいじゃないか。

こういう時はもっと最悪の時を思い出すんだ!そうすれば今の状況が楽に思えてくるはずだ!自分を奮い立たせながら「もっと悪い状況は?」と自転車を押しながら考え始めた。

まず寒くない、まだ雨だ、雪ではない。しかも手袋をしてないが手もかじかんでいない。靴の中も水を吹き出すほど濡れているが、まだ水だ、凍っていない。なんだ暖かいじゃないか。

【写真】雪に比べれば雨はスリップもしない。(写真はイメージ、チェコ)
【写真】雪に比べれば雨はスリップもしない。(写真はイメージ、チェコ)
 路面を見つめる。綺麗にアスファルトで舗装されている。なんだ未舗装のぐちゃぐちゃドロドロ道に比べれば走りやすいじゃないか。

【写真】未舗装の道に比べれば舗装路はだいぶよい。(写真はイメージ、カンボジア)
【写真】未舗装の道に比べれば舗装路はだいぶよい。(写真はイメージ、カンボジア)

 それにまだ明るい、暗闇でもない。山の合間で標高も1000mもない、何だ、何だ、たいしたことないじゃないか。などと無理やり自分を励ましながら進む。

こうしてどうにか日暮れ前に街に到着した。出会った地元の男性に「いやーしかしブーラが吹き荒れると大変だ」という話をすると「今日のはブーラじゃないんだ、ユーゴの方さ」はて、ユーゴとは?「ユーゴは南からやってくる風で、温暖、そして雨雲を連れてくるんだ。ほら、だから雨は降っても暖かかっただろう」。おおっ、言われて見れば確かにそうだ。ブーラは手がピリピリするほど冷たかったが、今日は大丈夫だった。「そしてなんと行っても南から来るから方角が違う」と男性は言う。

アドリア海沿いには二つの風が存在することが分かった。北のディナルアルプスから吹き降ろしの冷風ブーラ。もう1つは南からやってくる、湿度を含んだ暖かい風ユーゴ。
冷たい追い風か、暖かい向かい風か明日はどっちの風か。

【写真】ブーラかユーゴか、風の向きで進める距離が全く変わってくる。
【写真】ブーラかユーゴか、風の向きで進める距離が全く変わってくる。

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