ローマ広場にはバスの姿が見えないが雪に打たれながらバス停にたたずむ人が大勢いる。
よくよく見るとバスは運休ではなく、かなり本数が絞られているが動いているようだ。バスの姿が見えた。
「ほっ、なんだなんだ動くのか、そうだよなこんな雪でイチイチ止まってられないよな」
と思い自分が乗り込むバス5番が来るのを雪に打たれ震えながら待った。
待つこと30分以上、頭と背中のかばんに雪が降り積もった頃5番のバスがこちらに向かってくるのが見えた。
「おおっ」と思い駆け寄るがバスは既に乗車率200%のすし詰め状態。
うわっ、と入り口の前で躊躇する、それでも乗り込もうとする人がいるが全く乗れない。目の前、無常にもドアが詰め込んだ人にぶつかりながら閉まる。
まぁいい、次のバスで行けばいいや。思えばこの頃はまだ人間として余裕があった。
また雪の中で待つことになった。
もう靴の中はとっくに濡れていて雪の上に立つ足が堪らなく冷たい。
頻繁に来るはずのバスが全く姿を見せない。どれだけ削減されているのか分からないがバスに乗らないと帰れない以上ここで待つしかない。
警察官か蛍光のジャケットを着てやって来ると、人々がそこに群がる。
「一体どうなっているのか?」
と訊ねたいのだ、しかし様子を見ていると群がった人達が次々に方向転換して広場を去っていく。なんだやっぱり運休なのか。しかしそれでもバス停に残る人もいる。だからバスが来ないわけではないらしい。
これ以上雪に当たると体力を奪われるなどと思い軒下でバスを見守ることにした。やっと広場に入ってきたバスのナンバーが見えた「19番」19番でもキャンプ場の前を通過する。
よし!勇んで軒下から飛び出て19番のバスに向かう。バスは端の停留所に止まる。19番のバスの終点はローマ広場なので今まで乗っていた人が降りて来る。
当然それを待ってから乗り込むのだと思って見ていると、ドアが開いた瞬間、停留所で待っていた群衆が車内になだれ込んだ。
降りる人も下ろさずである。降りようとしている人が、乗り込む流れに巻き込まれてもみくちゃにされている。
うわぁ、まず下ろしてから乗ればいいじゃないか。と言うのは日本人ですね。テレビに映しだされた震災時の乱れぬ行列の光景を頭に浮かべ改めて素晴らしいと思った。
とにかくものすごい人がものすごい勢いでバスに流れ混んだ。
その光景を見て少し引いてしまった私は最後にちょっと搭乗口に乗れればいいやと後方で見ていたらあっという間にバスから人があふれるほど一杯になった。
ぐむっ、と唸っているとまたも目の前で「プシュー」と音を立ててドアが閉まる。容赦ない。
また雪の降り注ぐ広場に取り残された。がーん(古い)。
おぞましいものを見たと少々の衝撃が頭の中を回る。と同時に、あれに突っ込まないと永遠にバスに乗れないのじゃないかと思う。
それからピタリとバスが広場に入って来なくなった。辺りは完全に暗くなり街灯の明かりで照らされる部分で雪がまだまだ降り注いでいる様子が分かる。
バス停についてから既に1時間以上が経過していた。頭と肩に降り積もった雪は解けて内部に浸透し体を冷やしていく。「もっ、もうだめかもしれない。」明日の朝にはこのローマ広場にはバスに乗れずに凍死した人がゴロゴロという可能性が出てきた。
ズボンのポケットに手を入れていたがズボンも濡れてポケットの中の手が冷たい
「もう、次のバスを逃したらまずい」
と体を震わせながらバスが入ってくる方向を見つめる。
バスは来ない、全く姿を現さない。そのまま1時間経過。時々来るようになったバスの電光板を「5か19」と祈る思いで見つめる。
まるでカジノのルーレットの5番と19番に全財産をかけたような熱い想いだ。
実際ここでは大金はかかっていないが軽く命がかかっていると言っても過言でない。「早く来てくれ!」と心で叫び、違うバスナンバーを見るたびに「あーだめか」と落胆する。
「こっ、これはいよいよだめか視界が狭くなって。。」というのは嘘ですが、ビバーグ(野営)の必要性が出てきたかと思った頃、あきらめかけたその時、5番のバスが降り注ぐ雪の中現れた。
おおっ、救世主!
これを逃したらもうどうなるかわからない。バス停では5番を待ち構えた人たちがバスの到着を待たずにバスに駆け寄る。
ぐわっ~またすごい戦いが。しかし今回はこちらも後には引けない。もうこれ以上この広場にいたら何かがまずい。バスの入り口に群がる人に混ざる、遠慮をしていると取り残されるのでなるべく流れ込む群集に身を任せる。
ガタン、プシューとバスの扉が開く、後方から強烈に押されるので思っていた以上に簡単にスルリとバスの中に流れ込めた。
おおっ、車内に入れた。上からの雪が防げるだけでも暖かい。
頭と肩に積もった雪が溶けていく気がする。今回のバスは取り残される人がいないようにさらに圧力がかかる。
ぐうぅ。うむぅう。とうめきながら隣の人に押し付けられていく。
もう皆必死だ、外の方から「中へ、中へ入れてくれ~」と声が聞こえる。その度に隣人から圧力がかかった。変な姿勢で窓の外を見ると殆ど乗り込めたようだ。
よかった。バタン、ブシューと音がして何度かつっかかったドアが閉まる。
「今度はこの混雑の中キャンプ場前で無事に降りられるかが問題か」
と思っていると、雪で真っ白になった道をバスはノロリノロリと動き出した。