今日は天気もよく暖かい。午後の陽だまりの中散歩に出かけた。
心地よい風が肌をなでていく「もう春は近いなぁ」公園を歩いていると正面から茶色の犬が現れた。
犬はあちらこちらと自由に動き回っている、見たところ紐は付いていないようだ。
そのすぐ後ろに黒いジャケットを着た女性がゆっくり歩いて来る。
犬はコンクリートの道隅に顔を近づけ、匂いを嗅ぎまわる、その行為がかわいいので写真を撮ろうとカメラを取り出し、犬に向かってシャッターを押した。
「カシャ」
すると地面に向かって必死だった犬が頭をもたげる。
気が付いたのか。
それからこちらに向かってトコトコと近づいて来た。
はっはっはっ~カメラが気になるのかい?と犬に微笑む。
穏やかな午後のひとコマだ。
犬は尻尾を振りながら私に向かって来て、そして頭を撫でてくれといわんばかりにすりよってくるのだろう妄想をふくらませる。
「なんと可愛いやつ」
私は期待に胸を膨らませ手を広げ受け入れる準備をした。
トコトコ(犬の寄ってくる音)
さぁおいで!と手を出した
次の瞬間
「グゥ~」
と地に響く低い唸り声、伏せるように身構える犬。
「げっ!」
これは擦り寄ってくるどころか、その逆だ。
何だか知らないけど怒っている、しかも激高している。
犬は吠えはしないが「う~」と唸り姿勢を低くする。
「しゃ、写真を撮ったのがまずかったのかい?」
「そっそれならすぐにデーターを消すから!」
と和解を申し出ても全く受け入れてもらえない。こうして見ると結構大きい犬だ。まずい。
今まで散々犬に追いかけられた記憶が蘇る。
旅行中に犬に噛まれたこと3回。チベット、パキスタン、アゼルバイシャン(どこだそれ)。
いずれも後方からパクリ、ガブリ、パクだ。
そうだ!奴に背中を見せては駄目。
背中を見せると奴らは飛びかかってくる。
常に正面で対峙しないと。
これは鉄則。
今までの経験を踏まえて、恐怖心と逃げ出したい気持ちを押さえ彼と向かい合う。
先程少し後方に見えた女性がゆっくりとこちらにやって来た
「はぁ、飼い主が来てくれた」
と彼女の方をチラリと見る。
「ほら、ラッシー駄目よ!怒ったりしちゃ!」
と女性が言うと犬は尻尾を振って彼女に走り寄った。
ということはなく、彼女は犬と私の横を関係なさそうな顔をして通り過ぎてしまった。
「ひぃぃ!、あなたの犬ではないんですか~?」
こっ、これはまずい、飼い主らしき人はもういない。
よく見ると首輪もしていない、おっ、お前は野良犬か?「俺も野良人間だ」と同情を交えて和解を試みるが相手にされない、むしろ先程より怒っている。体内にはアドレナリンが駆け巡り、額からは汗がしたたる。
奴が引かないのならこちらにも考えがある。お前は知らないだろうが、こちらは何度も野犬と格闘したことがあるのだ
「くらえ!必殺石つぶて」
と足元に石を探すが無い。
そうかならば
「奥義、長い棒!」と言ったものの棒も無い。
「うぐっ、万策尽きた」
犬が飛び掛ってくると厄介なので私は身構え正面を向いたままジリジリと後退。
「ううっ~」と唸った犬が飛びかかろうとした、その時!
犬の集中力が一気に違う方に向いて、そのままザザザッと近くに茂みの中に消えていった。
「ホッ」
ねずみか猫でも通りかかったのか、何だか知らないが助かった。海外で犬に噛まれると狂犬病の恐怖がある。
そのため日本のように接してはいけないのをすっかり忘れていた。
私は風に揺れる木々を見ながら「危なかった~」と一人公園にたたずんだ。