フェリーが到着したバーリの街から少し南下した。
本当は北上する予定だったのだが、と言い訳を始めてしまいそうだが、ここまで長らく旅行していて今更言い訳も無い。理由をあえて言うならば気持ちや好奇心の赴くままというのが大きい。
実は簡単に書いてしまったが「この気持ちや好奇心の赴くまま」というのは旅行者にとってありがたい。好奇心が磨耗してしまったらもう移動もしたくなくなる、「あそこに行ってみたい」という好奇心が湧く間はまだ旅行ができる。
それから自転車移動なので鉄道やバスの路線に縛られることもなく、自分の足で進んでいるので陸続きで地図さえあれば「あっち」や「こっち」と縦横無尽に勧めてしまう。ただし時間はかかる。
と言うわけで、どういうわけだが、今回は地元イタリア人が激しくお勧めする「オストゥーニ」という街を訪問してみる。聞くとオストゥーニの街は白いのだそうだ。「とにかく白いからいってみれ!」と言われてそちらに自転車を向かわせることにした。
走行中なのはイタリア南部、ブーツの形をしたイタリアのかかとの部分。ここは「プーリア州」と呼ばれる州で地形はほぼ平ら、オリーブ木が非常に多い。走っても走ってもオリーブ畑しかない。聞くとプーリアはオリーブオイルの産地なのだそうだ。納得。
そんな10数キロも続くオリーブ畑を抜けると、前方の小高い丘に真っ白の家群が突如現れた。聞かなくても分かるあれがオストゥーニだ。
ただ単に白い壁の家が平地に密集しているだけならば全く話題にならないだろう。しかしこのオストゥーニは白壁の家々が小高い丘に密に立ち並んでいる。これがオストゥーニをオストゥーニたらしめている要因だ。
街に入るまでには急な下り坂が始まる。さすが丘の上。プーリア州の村や街は丘に上にあることが多く、通過するには上り坂になることが多い。街の内部に入る。オストゥーニと言っても街は新市街と旧市街に分かれていて、白い壁なのは旧市街。実は旧市街を背にして全く白くない新市街もある。
今日は土曜日、明日は日曜日なので観光地はツーリストで溢れかえるはず。路上芸人としてここははずせないとオストゥーニに留まることにした。日曜日、昼間はそこそこに観光客がいて街が賑わっていたのだが、夜の部と称している9時以降になると人影がまばら。
「いやいや、そんなことはない、少し早く来すぎたか?」
と人通りが増えるのを待ったが、人影は少なくなっていくばかり。近くにいた移民らしき物売りの男性に尋ねると。
「ここは昼間観光して、日が暮れると皆近郊の街に戻ってしまうから夜人は歩かないよ」
なんてこった!! 同じイタリア南部でも小さい街は人の動きが違うのか。
がっくりと肩を落としながら暗闇に浮かび上がる白壁の町を後にした。