ある雨の日

レッチェに来てから初めてと言っていいくらいまとまった雨が降った。ここでは7月8月は全くと言っていいほど雨が降っていない。日本のように入道雲が現れて夕立ということもなかった。おかげで毎日路上に出られたわけである。

今日は本当に珍しく雨が長い時間降り注いでいた。「今日は久しぶりの休みか?」と空を眺めていると、日が沈み、辺りが暗くなる前に雨が上がった。

久しぶりに休みたい反面、路上の芸は夏は正念場なので行きたいとも思う。折角雨が上がったのだ、行くことにしよう。

その前にといつもの安いスーパーに向かった。

食材のコーナーでハムを100gだけ切って貰うとおうと順番待ちしていると、前の熟年女性が振り返って

「あら、広場で手品をしている人じゃないの?」

と話しかけてくる。

「はぁ、そうです」

と答えると、その隣のおばさんも見ていたことがあるらしく

「カードと指輪がいいわね」

と口を挟む。すると今度後方から店員さんが

「オレの5ユーロを10ユーロに変えてくれ」

と言う。なんだなんだこの状況は、まぁあまり大きくない街でひと月も路上に毎日立っていれば、そこらで見た人に遭遇しても不思議ではない。

で何が言いたかったかというと、声を掛けてくれる人がいるというのは自分がそこの住民になってしまったかのようで嬉しい。

旅行者は常に移動を繰り返しているので、顔見知りに会うことは殆どないから。

それからレッチェの人は本当に穏やかで寛容だ。見ず知らずのアジア人でも少し知った顔なら話掛けくれる。こういうのは根を張らずに移動を続けている人間にはとても温かく思える。

「ありがたいなぁ」とレジに並んでいると今度は横の年配の男性が「オレのこと分かるか?」と尋ねてきた。1日何十人と言う人間の顔を見るのでハッキリとは覚えてないけど、この言い方すると一言二言でも言葉を交わしたようだ。確かに何となくは覚えている。「はは、分かりますとも」と曖昧に返事をする。

すると「今から家に来い」と誘ってくれるではないが、これもまた嬉しいお誘いなのだがすぐにでも路上に向かわなければならない時間だったので「また次回」とお断りした。

自転車の前かごに買ったものを放り込んでスーパーを後にして路上に向う。端から見るとまるっきり現地の人だ。

すっかり辺りは暗くなった。9月に入ると日もずいぶんと短くなったように感じる。もうすぐ人がゆっくり歩く時間だ。空を見上げると丁度半分の月が出ていた。

8月の怒涛のバカンスシーズンを過ぎた街は穏やかを取り戻し、道を歩く人の数は3分の1以下になってしまったが、それでも時々足を止めてくれる人がいるので助かる。

夏の暑さのさなか、汗をぬぐいながら演じていた頃に比べると、人も少なく穏やかな日々だ。秋はすぐそこまで来ている。

【写真】雨の日は街灯が石畳に反射して美しい。
【写真】雨の日は街灯が石畳に反射して美しい。

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