ゴミをあさる

2001年4月17日 日本 東京 出発から2日後。

午前1時少し回った頃、ハンバーガー店の前に行った。

既に何人かのホームレスが物陰にチラチラと見える、皆こうやって正面玄関のブラインドが降りるのを待っているのだ。

そうしている間に店からは膨れ上がったゴミ袋が次々と運び出され、店正面の通りに山積みにされていく。

【写真】ゴミをあさり食を得る。
【写真】ゴミをあさり食を得る

私はホームレスの人達より、更に離れた所から様子を見ていた。

ゴミの山が積まれ、店員の姿が見えなくなると、物陰に隠れていた3人が一斉に店の方へ向かって歩き出した。

店正面のブラインドはまだ開かれたままだ。

側で若者が酔っぱらったのか道に座り込んで楽しそうに話をしていた。

彼らを横目に私もゴミの山に向かった3人の後ろから歩調を合わせて店に近づく。

3人に続いて道を横断しようとすると、車がやって来るのが見えた、急いで車の前を横切ってもよかったが、「焦ることはない、この車が通り過ぎてからでも遅くはない。」と、足を止めた。

新宿の雑踏の中を走る車の速度はひどく遅い、酔っ払いや、突然、道を横切る人がいるから、運転手も慎重になっているのだ。

車は一台が過ぎると、次から次へとノロノロと数台現れた。全ての車が通り過ぎるのを待って、道を渡ると先ほどの3人組みの姿はない。

あたりをキョロキョロ見渡すが、それらしき姿は見当たらない。

「しまった!」

折角ゴミあさりの技を拝見させてもらおうと思ったのに、車を待っている僅かな時間で彼らの姿を見失ってしまった。

どうしたものか

と立ち止まっていると、店脇の暗い細い路地から先ほどのメンバーの一人が現れた、手にはゴミ袋を持っている。彼はそのままゴミ袋を積まれている山に「ポイ」と投げると、そのまま駅の方に行ってしまった。

中のものはもう取ったのだろうか?

少し急いでその男が出て来た路地に入ると、薄暗い中にゴミ袋に手を突っ込んでいる二人の男の姿が目に入った。

「うっ」と少し驚いたが声には出さない。

見失った3人組の残りの二人だ。彼らはチラリとこちらを見たが気にする様子も無く、ゴミ袋をかき回す手を止めない。

今までだったら「ぐわっ、見てはいけないものを見てしまった」と足早に立ち去るのだが、そうも言っていられない状況だ。

勇気?を振り絞りる

「ここで逃げてはまた空腹に打ちひしがれるだけだ」思い切って近づいて行き

「あっ、ありますか?」と何があるのか知らないくせに尋ねた。

一人が「ああ、あるよ」と顔だけこちらに向けてぶっきらぼうに言った。続けて「あんたもいる?」と予想外の言葉を投げかけられた。

なんだお前は、何見てやがんだ!

と怒鳴られるかと思ったらずいぶんフレンドリーな言葉だ。

おおっ、もちろんです」とは言わずに「はい」と丁寧に答えた。

じゃ、これちゃんと戻しておいてね」と男は言った。

ゴミ袋をキチンと元あった場所に戻せというのだ、少し意外だった。私があさったその後のゴミ袋の行方を心配しての言葉だからだ。

先ほどの「あんたもいるか?」やゴミの心配をするあたり、実はホームレスの人はキチンとした人間性があるのじゃないか、むしろ他人を気遣える優しい人だ。

心の荒んだ人ばかりかと思ったがそんなことはない。

彼らが立ち去った後、ポツンと残されたゴミ袋の中に手を突っ込むと、様々な感触のものが手に触れる、ハンバーガーショップにありそうな紙のゴミが多い。その中に紙に包まれた野球ボールくらいの大きさ、柔らかい物が手に触れた。

ゴミ袋から引っ張り出す、つぶれて、油っぽく、コーヒーの匂いが漂っているが、確かにハンバーガーだった。もう一度手を突っ込むともう一つ同じ感触の物があったのでそれも取り出し、急いで持っていたビニール袋に入れる。

ゴミをあさっているだけなのだが、なんだかヤマシく、人に見られたくない、あせってしまう。裏を返せばゴミをあさる人を私がそいう目で見ていたことになる。

手早くゴミ袋の口を縛り、言われた通り路地から山積みされた店の前に戻し、何食わぬ顔で静かな南口の方へ足早に向かった。

ひと気の無いベンチで腰を下ろして、取ってきた物を薄暗い街灯の灯りにさらす。

それは球体のひしゃげた形をしていたが包装してあるのが救いだ。包装紙を丁寧にはがす。

出て来たのは原型はとどめていなかったが間違いなくハンバーガーだ。鼻を近づけるとコーヒーと一緒に捨てられたのか、コーヒーの匂いがした、それ以外の匂いはしない食べられそうだ。

ゴミ袋から取り出したが何とか食べられそうだ
【写真】ゴミ袋から取り出したが何とか食べられそうだ

小さく一口かじり、すぐに飲み込まず、おかしな味がしないかを確かめる。賞味期限などないゴミ箱に捨てられているものを食べられるか食べられないかを判断するのは自分の味覚しかない。

口の中にはコーヒーに混じって、あの食べ慣れたハンバーガーの味がした。「大丈夫そうだ」そう判断して、一気にかぶりついて、一つを平らげ、もう一つも一息で食べてしまった。すべて食べてしまってから、もっとゆっくり食べればよかったと思ったが既に遅い。

朝から何も食べいなかったので、食べ物を口に出来ただけで妙な満足感があった。

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