マルチェロさんとノリコさんに出会ったのはもう今からは半年以上も前の話だ。
「ベネベント」と言う南イタリアの小さな町でのことだった。路上で手品をしていた私をマルチェロさんが見かけて、それから奥さんのノリコさんが話しかけてくれた。
こんな田舎の有名観光地でないところで日本人に会えるとは思ってもいなかったのでよく覚えている。
ノリコさん達もベネベントに住んでいるわけではなく、ここで開かれているマーケットにマルチェロさんの作品である陶芸品を売りに来ていたのだ。
私も旅行程を説明して、たまたまこの町に寄っただけと言う話をした。
そしてもし北に来ることがあったら「ウルビーノ」に住んでいるから連絡を頂戴と言われて連絡先を貰い、その時は別れた。
「ウルビーノ」を地図で見ると、イタリアのアドリア海側の内陸で、イタリアをブーツに例えるとふくらはぎの辺りを少し内陸に入った山岳部。
北には向かうけどここは通りそうもないなとその時は思っていたのだが、どこでどう計画が変わったのか、ウルビーノの近くまで足を伸ばしてしまった。
せっかくなのでということでノリコさんの連絡先を引っ張りだして、連絡を取って見ると、半年以上も前のことだけど覚えていてくれて、
「どうぞ寄って言ってください」というので、寄らせていただくことにした。
アドリア海沿岸の町を通過してペサロから国道423号線を内陸に向かって進んでいく。やがて道は両脇を木々に囲まれた山道に入り、上り坂が多くなった。殆ど自転車には乗れずに、自転車を押し上がることになった、こうなると時速は5km以下だ。
日がすっかり暮れた頃、何とかウルビーノに着いた。
そこからノリコさんが案内してくれるのだが、まだ山の中を進むらしい。
街灯もない道をノリコさんの車のテールランプを目印に進む、交通量が殆どない道から、入った未舗装道路を進み、やっとノリコさんの家に着いた。
辺りには他の家の明かりも見えないような静かな山の中だった。