苗木を積む

 今日は路上で手品を見て、そのままウェブサイトから連絡をくれたユーリーさんに会うことになった。

 待ち合わせした場所でしばし待つと年代モノの赤い軽自動車でユーリーさんが現れた。手品を見たというが全く記憶にない人だった。

 車に乗り込み、ユーリーさんの家に。セネガリアが見下ろせる丘の上にユーリーさんの家はあった。ひまわり畑に囲まれた景観のよい場所に立っている二階建ての家。都会のマンションを思い出し、ここは随分と対照的だなと思った。

 家にはユーリーさんの彼女であるクリスティーナさんが待っていてくれた。このカップルはどちらもとても気さく親しみやすい。

 ユーリーさんの仕事が面白くて興味を引いた。先祖の戸籍を調べる仕事をしているそうだ。お客はアメリカに渡った移民が自分のルーツを知るために依頼してくるのだとか。

 イタリアは教会を中心としたコミュニティーがしっかりしていて、大抵街の教会に古くからの住民の記録があるそうだ。ユーリーさんは、出身地と名前からその人がどこに所属していたかを調査するのだと言っていた。少し探偵みたいだけど、時間の流れも入ってくるので、色々なドラマがありそうだ。

 話をもう少し聞いていたかったのだけど、ユーリーさんの次の約束が入っていたのでお暇するこに。帰り際にユーリーさんが

「地球の緑を増やすためにこれを持って行ってくれないか?」

とオークの木の苗木を差し出してくれる。

「荷物になるから」

と断ったのだけど、

「どこでもいいから植えてくれればよいよ」

と言われたので、

「そうですか」

と持っていくことにした。

帰りの車の中でユーリーさんがやたらに私のことを褒めてくれた。見方によってはこんなにほめられるものなのだ。見方によってはどうしようもない男なのだけど。

「世界に平和のタネをまいているのだね」

とまで賛してくれた。そんなつもりはないのだけど、そう取ってくれる人もいるのだということだ。

車から降ろしてもらい

「このオークの木をどこか育ちそうなところに必ず植えます」

と言うと

「頼んだよ」

とニッコリと彼は微笑んだ。ユーリーさんの年代モノの赤い車が角を曲がって見えなくなるまで見送った。

【写真】自転車に苗を積む。
【写真】自転車に苗を積む。

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