マジシャンズナイト

「類は友を呼ぶ」という言葉があるが、路上で芸をしていると「まさにこの言葉だ」と思わされる瞬間が少なくない。

 単純に手品好きな人に出会うということである。きっと絵を描いていれば絵の好きな人に話しかけられて、音楽をやっていれば音に興味のある人に声をかけられるのだろう。

 手品をしている人と言ってもその幅は実に広い。パパが子供を喜ばせるために始めた手品から、手品が趣味だという高校生、テレビに何度も出演したことのある本格的マジシャンもいる。

 今回は手品を生業としている、つまり職業としているマジシャンに声をかけられ、更に昨年知り合ったこれまたプロのマジシャンが加わり、二人のプロマジシャンと手品談義をかわすということになった。

 手品を演じる人というのはその性質上変わったというか個性的な人が多い。

 手品の持っている性質と言うのは、自分しか知らない秘密をもって人を驚かすというものだ、そのためか少し謎めいた性格の人が多い。

 自分の周りを思い浮かべるとやはり手品をしている人というのはどこと無く影がある。同じ趣味でもサッカーや楽器を演奏する人は別に秘密や隠し事をする必要がないのでサッパリ、明るい人が多いように思う。

 などど手品師論を展開していくとやたらに長くなりそうなので、今回会った二人のマジシャンについて。

 待ち合わせの場所に現れたマジシャン達は揃って二人とも、手品師と聞くと思い浮かべるシルクハットをかぶっていた。彼ら二人に加え路上で知り合ったベネチアで留学中という学生さん達も加えて、落ち着いた雰囲気のバーへ。

 ローマのマジシャンであるベンジャミンさんとは去年やはりカーニバルの時期に路上で出会って今年もまた路上で再会した。

 お互い何の連絡も取らなかったのに、偶然とは想像以上に身近にある。ベンジャミンさんはシルクのハットに黒のコート、更におしゃれなデザインのマフラーを首に巻いている。「これから白い鳩を出しましょう」と言われても驚かないマジシャンのイメージのいでたちだ。

もう一人のマジシャンはベネチア出身のピエルルイージさん。彼は前日の路上で話しかけられて、「もしよければタネの交換をしないか?」と持ちかけられた、カーニバルも終焉を向かえた翌日だったので喜んで承諾し、それが今回の機会につながった。ピエルルイージさんは数年前までピアニストとして活動していたが、手品師に転職したらしい。手品をする身からするとピアニストの方がよい気もするが、本人が手品を選んだのだから口を出すところではない。

手品を見る側としてはタネはある程度分かっているので、それをどう演じるかを見たくなる。もちろんお互い知らないレアなタネならば手品師どうしでも「あれどうやってるの?」と聞きたくなるし、純粋に「うわっ」と驚く。

ベンジャミンさんはステージと言われる大掛かりなものから、クロースアップと言われる観客と至近で行う手品までこなすと言う。さすがに幼少から手品を始めたというだけあって、その洗練されたトランプ裁きだけでも目を見張るものがある。一瞬で扇型に広げられるトランプやカットの手さばきを見ているだけも「儲けもん」と思ってしまう。我ながらセコイ。ベンジャミンさんのマジックが始まる。

よく空気に呑まれるとか雰囲気に包まれるという表現があるが、テーブルの周りはベンジャミンさんの見えない空気が取り囲む。

今まで何百回、何千回と繰り返された指の動きは的確で迷いがない。

全員の視線がそこに注がれる。私も彼の手の一挙一動も見逃さないぞと瞬きせずに見つめる。しかしトリックがあったことさえも気がつかせずに衝撃的な結末に結びつける。もはや驚きを通りこして、息が止まり、驚きの声が出ずに、ため息が漏れる。人を驚かせるためだけに存在する技、これこそマジックの真骨頂。

一連のマジックが終わると、集中力の糸が切れ、あの圧倒的な空気から開放されて我に返る。「あれはトリックだったのか?それとも彼は本当に悪魔と契約して不思議な力を使えるのじゃないか」。

自分も手品をするものの端くれとして言いたかったがこれだけは言えなかった。「そっ、それどうやったの、ちょっとタネ教えてくれないかな~」 。

【写真】手品を演ずるベンジャミンさん(奥)同じくマジシャン、ピエルルイージさん(手前)
【写真】手品を演ずるベンジャミンさん(奥)同じくマジシャン、ピエルルイージさん(手前)

最新情報をチェックしよう!

15 イタリア回遊編の最新記事8件