小さなお客さん

ひと所で手品をしていると、意外に顔見知りが増える。

それはいつも通る道の店員だったり、路上でギターを奏でる音楽家だったり、全身を金ぴかに塗りたくった銅像のまねをしている人だったり、おもちゃを売るバングラディシュ人から偽物のカバンを売るセネガル人、そしていつもの見かける物乞いまで顔見知りになってくる。

新宿でホームレスをしていた時と同じで、顔見知りだが、その人の過去がどうとか、家族がどうとか、どうしてここにいるかというのはお互いあまり知らない、単純によく顔を合わせるので、お互い「ああ、奴も仲間か」と思うぐらいだろうか。

毎回同じ所で芸をしていると、お客さんの方にも覚えてもらえ、思わぬ所で「広場のマジシャンね」と声を掛けられることがある、この間はスーパーでハムを切ってもらっていたら「広場で見たわよ」肉コーナーの年配の女性にニコニコしながら言われて驚いたものだ。

特にサービスしてくれるわけではないけど、無愛想で淡々とされるよりもよっぽど印象がよくて、また「あそこで買おうかな」と思ってしまう。

ところで、最近土日になると必ず現れる少年が居る。彼はいつも一人で見に来る。子供はたいてい、通学途中で友達と一緒か、休日ならば父親や母親と一緒にいるのだが、彼はいつも一人で現れた。始めて見かけたときは「近所の店の子供かな?」と思って彼の行く先を見ているのだがどうも違う様子だ。

【写真】いつも来る小さなお客さん、ジョルジ。
【写真】いつも来る小さなお客さん、ジョルジ。

あまりによく来るので、手品が終って区切りによい時に彼に声を掛けた。

「こんにちは、名前は?」

と少年に言うと、

「ジョルジだよ」と言う、

「私がジョージ?」

と言うと

「違うよジョルジだよ」

と言い直す。

「ジョルジは何歳?」

と聞くと「10」という返事が返ってきた。

「ふーん、いつも一人だけどお父さんかお母さんはどこかにいるの?」

と私は常々疑問に思っていたことがつい口から出てしまった、ジョルジを顔が少し曇ったのが分かった。言ってしまってから少し後悔した、「もしかしたら、ジョルジの両親はいないのかもしれない」という考えが浮かんだからだ。「あっ、ごめん何でもないよ」と言おうとしたら、ジョルジが一方向を指差した。

その先にはカフェがあったので、

「そうか、カフェで働いているの?」

というとジョルジは首を振る、「違うの?」指差した方向には、カフェとタバコ屋しか見当たらない、「タバコ屋?」ジョルジはまた首を振る、彼が指差す方向をもう一度よく見る、道から少し出たオシャレなカフェと、タバコ屋と、そのすぐそばに金色に塗りたくったスタチュー(銅像の物まね)がいるだけだ。

うん、金色のスタチュー??

「もしかして、あの金色の君のお父さん?」

と言うと、「そうだよ」と頷く。驚いたジョルジの父さんはいつも見かけるスタチューだったのだ。

いつも金色スタチューの彼は手を振ってくれるので顔なじみだったのだけど、まさかジョルジのお父さんだったとは、ははは。

【写真】なんと黄金のスタチューはジョルジョの父。
【写真】なんと黄金のスタチューはジョルジョの父。

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