バルコラーナ

トリエステの町を自転車を走らせていると、聞き覚えのある音楽が聞こえてきた。アップテンポなドラムとハーモニカを混ぜた音だ「これは!?」と辺りをキョロキョロと見渡す、広場にせり出したオープンカフェの向こう側にドラムセットの姿が見えた。やはりそうだ、近づくとワンマンバンドのクリストファー、グラードの路上で出会った彼だ。

自転車を止めて演奏が終るのを待つ。向こうもこちらに気が付いたのか、顔をこちらに向けて片目をパチリとしてきた。曲が終わり演奏する手が止まったところで近づき「やぁ」と挨拶をしてから、話しかける。グラードを離れてから今日までの経路やお互い知っている路上の芸人の話し、それらの話題がひとしきり終わった後でクリストファーが言う

「この時期にトリエステにいるのは大正解だ」

「大正解」の意味が分からずに「えっ、どうして?」と私は聞き返した。

すると彼は腰に巻いたカバンの中からタブレットを取り出し、画面を撫でるように操作をしてしてから画面をこちらに向けた。画面にはカレンダーが映し出されている。

「10月に第1週から2週にかけてトリエステでは大きなバルコラーナと呼ばれるフェスティバルがあるんだよ」

確かにカレンダーの10月6日からなにやら予定が書き込まれいる。「バルコラーナ」とは一体どんなイベントがあるのだろうか興味が沸いたので、彼に訊ねる。

「ヨーロッパ中からヨットがやって来てレースをするんだ、そりゃ凄い人出だよ!」

クリストファーは腰袋にタブレットを戻しながら

「だからどんなことをしてもここにいた方がいいよ!」

と少し興奮した様子で付け加えた。なるほど、それだけ凄いフェスティバルがあるとなればここに残らない手はない。坂道が多くて自転車にはあまり向かない街だけど少々ここに留まってみようか。路上で生きる者としてはヨットのレースはともかく「すごい人出」という言葉に魅かれる。

クリストファーの調べた通り10月6日から海沿いの歩道には露店様のテントが並びフェステバルの装いをしてきた。インターネットの情報では一週間も前から街がソワソワしだすと書いてあったのだが、曇りで雨が多く加えて肌寒くなってきたのであまり盛り上がっているようには見えないのだが、どうなるんだろうか。

【写真】路上で演奏しているワンマンバンドのクリストファー
【写真】路上で演奏しているワンマンバンドのクリストファー

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