路上のルール

 一見好き勝手に演じている路上芸人の中にも暗黙のマナーというかルールが存在している。

 何のルールか?

 演じる場所のルールである。

もちろん厳密なルールブックがあるわけではないので各自の裁量や判断に任せられている。そのルールは至極単純で「早いもの勝ち」そして「他の芸人と距離を置く」というもの。

「早いもの勝ち」というのはその場所で先に演じているほうが、その場所で演じる権利を持つという当たり前の話。しかしこれが結構重要。路上の芸人はよい場所が取れるか、そうでないかで確実に投げてもらえるコインの数が違ってくる。

【写真】路上には暗黙のルールが。
【写真】路上には暗黙のルールが。

街の繁華街や人の集まる広場で演じられれば、それだけで人の目に留まる。逆に人の歩かない路地、寂れた場所になると人の目が届きにくかったり、人自体がいない。

これは極端な例だけど、もっと微妙な範囲で差が出る。あのタバコ屋隣の角は人目につきやすく、その洋服屋の前は隣に街路樹があって目立たないという感じで。当然芸人達はタバコ屋の隣で演じられれば最高なのだが、残念ながら1つのスポット(場所)で演じられるのは一人。

ここで重要になってくるのが「早いもの勝ち」のルールだ。誰の場所というわけでもないのでそこで先にいたほうが、演じる権利をもらえるというものだ。だからお目当ての場所を手に入れられればその日は安泰。

先に誰かが来ていれば

「むー、今日はどこか探さねば」

と違う場所を探すことになる。これだけで時間のロスだし、よい場所が見つかるとも限らない。

「だったら早く行き場所を確保しておけばよいじゃないか」と思われる人も当然いるだろう。激戦区ではもちろんそういうこともある。よい場所には自分の道具の一部を置いて「ここでやるから」と主張しておくのもひとつの方法。

しかし、ここがまた少し問題になるのだけど「演奏しているわけでもないのに場所だけ確保するとはなんだ」と、道具を端によけ何食わぬ顔で演じ始める人がいる。

当然場所をとっておいた方は「何だ!、俺の道具が見えなかったのか!」と言い出し、大抵揉めることになる。私もこの場所確保方法はあまり好きではない。

「だったら道具など置かずに演じてればよいじゃないか」という声も聞こえてくるだろう。路上の芸を長く続けていると、知らず知らずのうちに効率を求めるようになってくる。つまりいかに人に目に付く場所で、人の多い時間帯で効率よく演じるかとなるのだ。よい時間帯外で演じてもよい時間と比較にならないほど差がでる。

極端な例を挙げるなら朝の通勤時間に演じても人は足を止めにくいが、日曜日の午後なら人は簡単に足を止める。悪い時間というのはこの通勤時間のようなもので足を止める人が少ない。いくら慣れているといっても止まることのない人相手に芸を繰り返していると心も体力も消耗する。

長くなったが以上のことを踏まえて、路上の芸人は早く行き過ぎても無駄に体力を消費する、遅すぎると場所が取れなくなる、よって早からず、遅からずの間を狙って路上に向かう。

自分はこの曜日の、この時間、この場所で!と勇んで出かけても既にそこに芸人の姿があると「しまった!!やっちまった!」と愕然とし肩を落とすのである。(だったらもうちょっと早く行けばよいのだが、相手もそれを察知して次からそれ以上早く来るというイタチゴッコが始まるのもよくない)

もうひとつの「他の芸人と距離を置く」はまた次回ということで。

【写真】芸人達にとって場所取りは死活問題でもある。
【写真】芸人達にとって場所取りは死活問題でもある。

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