やたらに冷え込んだ土曜日、寒さのせいか人の行き交う足が速い。
立ち止まる人もおらず、練習しながら路上に突っ立ていると、目の前を荷物を満載した自転車が通り過ぎる。
ちらりとアジア人らしい横顔が見えた。
「おっ、珍しい!」誰も観客がいなかったので急いで荷物をたたみ、その自転車を追う。
急いで自転車にまたがったが、ずいぶん離れてしまったので「追いつけないかな」と思っていたら、前方の赤信号で止まっていた。
横に乗り付けて顔を覗き込むように「ジャポネーゼ?(日本人)」と声かける。
こちらに顔を向けた彼は少し不審そうな表情をしていたが「イェス、ジャパニーズ」と返事をしてきた。
そこからは日本語の会話。
久しぶりに日本人の自転車旅行者に出会った、前回会ったのは昨年の10月だからもう1年以上も前のことになる。
ちょうど宿を探しているというので、現在私が宿泊している場所に来てもらった。
彼の名はユキ君、大学生だけど休学してユーラシア大陸横断をしているとのこと。
船で神戸から上海に渡り、そこから自転車で中国、中央アジア、それからコーカサス地方、トルコ、ヨーロッパというコースを走ってきたという。
様々な面白いエピソードを聞かせてもらったが、一番印象に残っているのがパスポートの事件だ。
ユキ君がブルガリアでパスポートを間違えて洗濯してしまったという話。
パスポートを洗ってしまったことに気がついた時には既に遅く完全に洗われていたそうな。
ICチップが入っているパスポートだったせいか曲がったり折れたりはしていなかったがすべてのページがくっついてしまいそれはもう見るも無残な姿になったそうだ。
「ひいぃぃ」と悲鳴を上げたくなる状態だったろう。
ユキ君は一枚、一枚ページを乾燥させることにした。
一応丁寧に全部乾かしてそれを持ちブルガリアを旅だったそうだ。しかしここからが試練の道だった。
洗濯して乾かしたフニャフニャのパスポートをで国境を越えられるのか?実物を見せてもらったが、私が検査官だったら
「何これ??怪しい」とひと目見て思うだろう。
ページをペラペラめくると、ここまでの旅路で取得したビザがはげあがりこすれて、文字は全く読めない。
予想通り他国への入国は困難を極めたらしい。
某国では入国を拒否され自転車で違う国境に向かい入国し、またある国では上司を呼ばれて質疑になったという、またある国では表紙に問題があるというので、ノリをつかい自作補修したらしい。(ちなみにパスポートは自作してはいけないことになっています、ははは)
極めつけはパスポートをペラペラめくっているとページ番号が飛んでいる。
「えっ、おかしい」と思って確認したがはやりおかしい。
ページが数ページ抜けているのだ。それはユキ君も気がつかなかったらしく
「あれっ、おっかしいな~、どこで取れたんだろう、洗濯機の中には無かったし」と言っている。
「パスポートのページが無いってすごいことだよね」と驚きながら私が言うと
「わは、そうですね」とユキ君は人事の様に言う。
長らく旅行をしているがパスポートのページが紛失しているのを初めて見たし、それを使用している人ももちろん初めてだ。
ユキ君は年内に日本に戻るらしいが、無事にあのパスポートで問題なく進めるか少し心配だ。
<関連リンク>
驚きの自転車旅行者
二人の自転車乗り
自転車の国
ツイッターで更新、最新情報をつぶやいています。
@bikeandmagicさんをフォロー