出稼ぎ

 好奇心を掲げてクロアチアの島を転々と渡り歩いたのだが、その代償は大きかった。

 路上で芸をしてどうにか食いつないでいる者にとって、季節外れのリゾートアイランド巡りは浪費と言う以外の何物でもなく、これからまだ続く冬をどう乗り越えて行くかの不安を大きくしただけだった。

 ひっそりとした島もまたそれはそれでよかったのだけど。

 島なんか巡らずに一直線に南の大都市スプリト市を目指せばよかったと後悔しても始まらない。

 うーん、去年はどうしていたか、確か昨年の今頃はベネチアカーニバルの路上芸人の許可が下りて、カーニバルに行っていた。

 もしかして今年も申請を出せれば、許可されるのかとファックスを駆使して申請書を送付「だめだろう」と半ばあきらめていたら「いいですよ」の許可が下りた。

 しかし少々の葛藤がある。

 一年かけてのらりくらりと自転車で進んだ道をまた戻るというのはいかがなものか。その場合はもちろん自転車では戻れないのでバスや鉄道を使うことになる。悩むが目の前の財政難もあり、去年のカーニバルの雰囲気も素晴らしかった。ここは出稼ぎと割り切って戻ることにした。

最小限の荷物をもって再びベネチアへ。

自転車で移動した場所をバスで引き返す。

窓の外の風景を見ながら、風も感じず、雨も当たらない、坂があって道がうねっていても自分は座席に座っているだけでものすごい速さで進んで行く、楽なのだが窓に映し出されている映像を見ているだけで、何か味気なく感じた。

まるでテレビの画面を見ているようだ。

以前自転車旅行者の太郎君が「バスに乗ると自転車に乗りたくなる」という言葉が頭に蘇る。

【写真】バスの車窓から、まるでテレビの画面のように景色が流れていく。
【写真】バスの車窓から、まるでテレビの画面のように景色が流れていく。
最新情報をチェックしよう!

15 イタリア回遊編の最新記事8件