日本を出国した2002年、「あいのり」というテレビ番組が人気をはくしていた。若い男女が一つのワゴン車に相乗りし、世界を旅行し、恋愛するというバラエティ番組だ。
移り行く景色のなか、変わる国を長らく旅行をしていると男女の間に恋が芽生える。そして告白していくという流れだった。
なぜこの番組を思い出したかというと、今日はそれを彷彿させる凄いものに出会ってしまったからだ。11年自転車で旅行しているが、これは初めて見た。
それは
自転車15人旅。
「15人?!」
思わず聞き返してしまった。
リーダーのイアンはこんな質問は今までに嫌と言うほど聞かれているのだろうが嫌な顔一つせずにニコヤカに答えてくれた。
「そう、今は15人だよ、もともとは僕が一人で始めたものなんだどね」
聞くと、4年前にイアンが自転車旅行を始め、次々と各地でメンバーが増えていったという。
「次々と言っても15人にもなるの?」
と驚いた私が聞き返す。
「そうだね、最初は5人くらいでしばらく走っていたけど、また最近は増えてきて、今は15人。国籍も色々で僕達フランス人だけど、ドイツ、オーストリア、ギリシャ、スイス、アルバニア、メキシコ、イランと色々な国籍の人がいるよ」
同じく自転車旅行をしている者としては質問が次から次へと湧いてくる。
「寝るところは?食事は?」
「寝るのはテントが一番多いよ、雨が降れば宿に泊ることもあるけど殆どキャンプだね」
「15人となると場所を探すのが大変じゃない?」
「それが15人になると襲われる危険がないから、どこでも空き地でテントが張れるから気楽でよいよ。だけど7つのテントを張るのに十分なスペースがなかなか見つからないことがあるかな。」
「食事は毎日キャンプファイヤーで作っている。枯れた枝を集めて火を起こしてそれでキャンプファイヤーみたいにして料理をするんだ。毎日キャンプファイヤーで火を見ながら語らうのは楽しいね」
それらを聞いて感服した。ホテルやレストランを使わないワイルド自転車旅行だ。シャワーは川や海だという。食料を買うのに必要なお金は皆で歌を歌い投げ銭だというのだ。もう開いた口がふさがらない。
という話をしていると、後ろの方の男女のメンバーがイチャイチャとしている。男性が9人女性が6人のグループだそうだ。これを聞いて、あのテレビ番組「あいのり」を思い出したわけだ。
「あいのり」はワゴン車に乗って世界旅行をしているバラエティだが、こちらは自転車で走っている間に恋が芽生えていくのではないか。
自転車はワゴン車に比べるとずっと過酷だ。その分、そういった過酷な体験を共有すると恋心も芽生えやすいだろう。
路上で皆で歌を歌うところを見させてもらったが、実に皆楽しそうにしていた。自転車旅行なのでもちろん楽しいことだけではないだろうが、彼らにとっては輝く青春の一ページになることは間違いないなさそうだ。
走行方向が一緒だったら私も16人目のメンバーとして加わりたかったところだが、生憎今走ってきた国道8号線を北上するというので、今回はやめよう。また世界のどこかで彼らと出会うことがあったらその時は一緒に走りたいものだ。