1953年にエドモンドヒラリー、テンジン・ノルゲイに初登頂されてから60年以上が経過したエベレスト。2000年代に入ってからはその登山者数は年々増加の傾向にある。
こと初登頂がなされたネパール側からのエベレスト登山ルートは「ノーマルルート」とも呼ばれ、最も登頂率が高くそのため多くの登山者がネパール側から山頂を目指している。
そして高額な入山料を支払いさえすれば、ほぼすべての人にエベレスト登山の門は開かれていた。
ところが2015年9月29日、突如ネパール政府がエベレストの登山者に入山制限をかけるという発表を行った。
今回の制限は?
Nepal bans novice climbers from Everest, considers more limits(英語)
ネパール、初心者のエベレスト登山を禁止
エベレストに登るにはある程度の登山経験がなければならない。
具体的には標高6500m以上の登山登頂経験がないとエベレスト登山は認めないというもの。
これは標高6500m以上の高峰の登山経験ではなく、あくまでも山頂を踏んでいなければならない。
日本人にとっては国内最高峰が富士山の3776mであるから、日本人がエベレスト登山を考えた場合は少なくとも海外6500m峰に登頂しなければならないということになる。
ヨーロッパの最高峰とされるエルブルース山でさえ5642m。それどころか南アメリカ大陸の最高峰アコンカグア6959m以外の各大陸最高峰はすべて6500mを下回っている。
つまり各大陸からエベレスト登山を目指そうと思ったら、少なくとも南アメリカかアジア大陸まで来て6500m以上の高峰に登頂しなければならないということになる。
実は以前からも
今回はネパール政府が明確な規則、制限として発表を行ったが、実はこの制限の前にもエベレストを目指す登山者には暗に提示された課題があった。
それは6000m以上の高峰登山の経験が必要というもの。
これは公募隊登山が一般的になってきた現在であるが、公募隊であれエベレスト登山を目指す人には経験や課題を課す。
近年のエベレスト登山に技術難所はないとは言え、やはりその標高たるや世界一である。体力をはじめ高度の順応できる能力などが必須になる。そうしたふるいにかけるためにも公募隊にも一定水準の隊に所属させる基準はあったといえる。
それが今回のネパール政府の発表に完全に数値化され制限されたということになる。
登山の難易度はそれほど高くないといわれるエベレスト、それでは初心者でも登れるの?というのが今回のテーマ。結論から書くと「はい、登れる可能性はあります」。現代のエベレストの登山は公募隊と呼ばれるガイドが引率し山頂まで連れて行く[…]
ネパール政府のねらいは?
ネパール政府はこの規制を何のためにかけたのか。
第一は登山経験がそれほどない登山者の事故を防ぐことがあげられるのではないだろうか。
エベレスト登山は登山シーズンになると山頂まで固定ロープが据え付けられるので難所こそないが、そのロープを辿り上部に行くにも体力が要される。
6500mを登頂できるという制限を設けることにより、登山体力のない者の参加がなくなる。
たとえロープが張られていても途中で体力が尽きて動けなくなってしまうとどんな山であっても危険である、ましてやエベレスト、8000m以上のデスゾーンで動けなくなることは即、死につながることさえあるのだ。
またそれを助ける人も危険にさらされるのがデスゾーン。
今回の制限はこういったエベレスト山頂まで辿り着ける体力のない人を制限するのに効果がある。
また著者が考えるところ、近年のエベレスト登山者増加によるエベレストのゴミ問題や排泄物問題に対しても効果があるのでないかと思う。
そして頂上直下の岩場であるヒラリーステップでの渋滞の緩和。
登山者数を絞ることにより得られるメリットは大きいものである。
逆にデメリットは公募隊を募る会社や入山者が減ることによるネパール政府入山料の収入が減ることぐらいだろうか。
さらに高齢者や障害者を対象に
ネパール政府は登山者経験を問うほか、高齢者や障害者に対する規制も行う検討も行っている。
エベレストにはこれまで全盲の人や両足義足での登頂などがあるが、これからはそれらが規制の対象になる可能性がある。
また高齢者の制限が行われると三浦雄一郎氏などの高齢者のエベレストチャレンジが難しくなる。
しかし高齢者や障害者に対する規制はまだ明確に発表されていない、規制の範囲がどれほどになるかが注目される。
規制はネパール側でのこと
エベレストは中国とネパールにまたがっている。
今回の規制はあくまでもネパール側での話である。中国側からの登山は中国政府の許可になるのでまた違う。
2015年9月29日の時点で中国政府は何も発表していないのでこちらは規制されていないといってよい。
しかしネパール側の発表を受けて中国側が影響される可能性もないとも言えない。
話題の著名人の登山は?
エベレストに挑戦可能性のある著名人としては「世界の果てまでいってQ」のイモトアヤコ氏とエベレストに3度挑んだなすび氏がいる。
イモト氏の場合、2014年度に世界第8位の高峰マナスルに登頂しているので今回の規制にはかからない。
一方なすび氏はエベレストの登山経験があるものの、標高6500m以上の高峰への登頂経験はない。従って今回の規制が厳密に施行されれば、登山禁止になる可能性はある。
まとめ
初登頂から60年以上が経過した現在、ネパール政府がはじめてエベレストの登山に経験を問う姿勢を見せた。
この規制により登山経験未熟者が入山できなくなるので、そういった初心者の事故や遭難を防ぐことができる。
またそれ以外にも近年増加傾向にあるエベレスト登山者数が抑えられ可能性もあり、ネパール側のエベレストの諸問題、渋滞、ゴミ問題の解決の改善につながるかもしれない。
発表はあったものの施行期日はいつからか不明。
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