ホームレス生活も一月を過ぎると更に人間関係が広がっていく。
1日の重要作業がゴミあさりだけなのでどうしても暇になり、顔を何度か見た人は自然と話を始めることになった。
「千葉さん」もその中の一人だ。
ゴミは一緒に取ることはなかったが、寝る場所の近くでよく顔を合わせていたのでいつの間にか話すようになっていた。
「千葉さん」というのも名字ではなく、「千葉出身」という情報から私が付けたもので本名は知らない。
歳は50~60くらいだろう、細身で昔のテレビ番組「できるかな」に登場していたノッポさんのような帽子をかぶっている。
千葉さんはやたらに知識が豊富で、色々な物事のうんちくをたれる。
今日はどこか私が行ったことのない土地の話をしていた。
本当に証券の話から世界情勢まで色々な話題をするので「過去に一体何をしていた人なのだろうか?」と疑問が沸くほどだ。
「ともすればどこか名のある教授じゃないだろうか?」
なんて考えてみるがそんな人がホームレスをする必要は無い、全く無い。
そこと無く聞いてみてもハッキリした過去は話してくれず、私も問い詰めるつもりはなかったので知ることはなかった。
そう言えばよく話すようになった、赤さん、帽子さん達の本名も知らなければ過去も知らない。
そして彼らからしてみれば私の名前はもちろん知らないし、過去はもちろん「どうしてこんな生活をしているのか」というのも聞いてこない。
赤さんは赤いジャケットをいつも来ているのであかさん、帽子さんは野球帽子をかぶっているので帽子さんと自分の中で呼ぶ。
実際彼らに接する時は「〇〇さん」とは呼ばずに、「今日の調子はどうですか?」とか「昨日の食料はどうでしたか?」などと差しさわりのない会話をする。
彼らは私のことを「兄ちゃん」と共通して呼んでいた、それはホームレスの中では私が若い方だったからだと思う。
過去や余分な詮索はしてこない彼らだったが、皆よく私に「若いうちはやり直しがきくからな」と何度も言ってくれた、その言葉がいつも心に残っている。
寝る場所も安定してきて、候補地がいくつかある。
とりあえず、人通りがなくなったら駅の地下の隅で寝て、人が動き出したら閉まっている店の前に移動といった具合にしている。
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