凍りつく結婚式

チュニジアの首都チュニスに着いてからは、現地で一番安価と思われるホステルに滞在している。

ここは一つの部屋に幾つものベットが並べられているいわゆるドミトリ形式で一泊あたり格安で宿泊できた。

【写真】二段ベッドが並ぶドミトリー宿
【写真】【写真】二段ベッドが並ぶドミトリー宿

この建物はもともとはホステルではなかったのか、建物のつくりは全くホステルに向いていない。

部屋は2階にあり、1階は四方を壁に囲まれた広々としたフロアが、吹き抜けになっている。

そしてホステルには似つかわしくない少し高級そうな椅子やテーブルが並べれてあり、初めて見たときは「この安ホステルにしては不釣合いだな」と思う。

ホテルの従業員に尋ねるとここは以前高級レストランか何かだったらしい、それを改築して今はホステルを経営しているのだとか。

そのためか今でも時々結婚式の会場に使われることがあるとの事だった。

確かにここに揃えられているテーブルと椅子を使えばそれなりの式場ができそうではある。

そういう話を聞いていたので実際に「近日中ここで結婚式があるよ」と聞いた時はチュニジア式の結婚式が間近で見られると嬉しくなった。

安宿に似つかわしくない豪勢な家具が並ぶ
【写真】安宿に似つかわしくない豪勢な家具が並ぶ

結婚式当日、路上で芸をしてから宿に戻ると、既に宴が始まっているらしく1階のフロアは着飾った大勢の人で溢れかえっていた。

軽快なアラビック音楽が流れ、老若男女がその音楽に合わせて楽しそうに踊っている。

イスラム圏では飲酒は禁じられているので、皆お酒は一滴も飲んでいないのに、なかなかのハイテンションである。

その空気を感じると「ここは一つ私も芸でも披露して盛り上げよう!」という気持ちにさせられる。

チュニジアでは路上の芸が大ウケである、間違いなくここでもウケルはず。

ひとつ、新郎新婦にお祝いの意味をこめて芸を披露しようと準備をする。

しかしいきなり会場に飛び込んで芸をするわけではない、会場の隅っこで少し演じていれば、周りの人が気がついて「おおっ、それは面白い!」と勝手に中心に連れて行ってくれるだろうと作戦を練る。

名づけて「ひっそりはじめるけど、新郎新婦の前につれていってもらっちゃおう作戦」である。そのままですね。

というわけで会場の隅っこで始めると、一分もたたず近くでノリノリで踊っていた年配の男性が「おおっ、面白い!」と言葉は分からないが、反応。

私に手招きをする。内心「よしっ、予想通り!」。

そしてその年配の男性は私の手を引き「是非、ステージへ!!」と促すではないか、

おおっ、まさにこれこそ計画通り」、

その男性に引かれるままに私は新郎新婦が座っているすぐ横の一段高くなったステージに引き上げられた。

男性は「さっきの芸をもう一度!」と促してくる。

もちろん、こちらもそのつもりである。

横にいる豪勢な衣装に身を包んでいる、新郎新婦に一礼をして「では!」と耳に割り箸を入れる芸をはじめる。

それまで踊っていた皆の視線が一斉にこちらに突き刺さる。

おおっ、予想以上の反応!

新郎の方をにチラリと目をやると、新郎の目がこちらに釘付けになっている。

「おおっ、東洋の神秘に驚いているようだ」と次の芸にうつる。

お次は人気のカード飛ばし。

「それっ!」前列で踊りながらこちらを見ていた人が一斉に踊りをやめて食い入るようにこちらを見始めた。

「よし!この反応!」と思いながら皆の顔を見ると笑顔ではない、何か別の表情だ。

通常手品を見せると人は驚き顔になったり笑顔になったりするのだけど、そのどちらでもない、何か得たいの知れないものを見るような凄い視線だ、表情が険しい。

前列の踊っていた皆が踊りを止め、動きが固まる。

会場から人の談笑が消え、ダンスの動きが消え、そこに軽快な音楽だけが流れている。

固まった人々の視線、それもなぜか少し怖い視線が突き刺さる。

全員が固まっている。

というか凍りついていると言ったほうが的確か

「あれ、何これ?まずい?」

自問自答をしていると、ここにつれてきた男性がこちらに駆け寄ってきて「サンキュ、サンキュ!」とあせりながら言い放ち、私の手を引っ張ってステージから下ろされてしまった。

周りの人はまだこちらに視線が釘付けであるが、男性は私を力強く会場の隅っこに引っ張ってきて、再び「サンキュ、サンキュ」と言われて私は放置された。

ぽかーん」 一体何が起こったのか分からないが、とにかく場が凍りついたのだけは分かった。

笑顔はなく、凍結

私が会場の隅に戻ると、再び人々は何事もなかったように楽しそうに踊りだし、談笑が始まった

さっきのあれは一体ナンだったのか?疑問を抱えながら二階のドミトリーに戻るしかなかった。

そういえば似たような経験があったのを思い出す。いつものチャイ屋(こちらの喫茶店)で路上の芸を見たという若者に会った、その若者がここで芸を見せてくれというので少々芸を見せる。

よく行くお気に入りのお茶屋さん
【写真】よく行くお気に入りのお茶屋さん

するとそれまで愛想のよかったおじさんの表情が固まり、態度がよそよそしくなった。

チュニジアでは手品は芸ではなく、悪魔の技とでも思われているのだろうか。

今日は以上です。

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