遺体回収不可能!?死の領域、エベレストデスゾーンとは

近年、登山希望者が増加傾向にあるエベレスト。

登山希望者を募って一つの隊として登山する、公募隊が主流になり大衆化が進んでいる。

一方で登山者が増えると、危険度が増すという声もるある。

事実2019年にはエベレスト登山関係で11人が亡くなっている。

今回はエベレストの山頂付近、特にデスゾーンと呼ばれるエリアで亡くなった場合、遺体は回収するのが難しいという話である。

標高8000mを超えたエリアはデスゾーンと呼ばれる
【写真】標高8000mを超えたエリアはデスゾーンと呼ばれる

エベレストのデスゾーンは?

デスゾーンとは英語で「Death Zone」と表記し、文字通り「死の領域」ということになる。

主に標高8000m以上のエリアに使われる言葉で一言で言うならば

滞在しているだけで死んでいく領域

である。

標高8848mのエベレストにおいてデスゾーンは標高7900mのキャンプ4上部から山頂までの間ということになる。

【図】エベレストのデスゾーン
【図】エベレストのデスゾーン

上の図で赤くなっている部分がデスゾーン。エベレスト登山において事故が多発しているエリアといえる。

1996年のエベレスト8名が亡くなった大量遭難事故もこのデスゾーンで起こった遭難事故である。

1996年の遭難事故の登山隊に所属していたジャーナリスト、ジョン・クロッカワが書いた書籍。

デスゾーンはなぜ死の領域なのか

デスゾーンではなぜ人が死んでいくのか。

・薄い空気

標高8000mを超えると、空気が地上の3分の1となる。

空気の濃度3分の1と言ってもイメージがしにくい。

よく言われるのが標高0m付近に暮らす人を、いきなり空気濃度3分の1のエリアに連れてくると2~3分で気を失うという。

人間の血液中の酸素濃度を示す、血中酸素濃度は海抜近くでは98%~99%だが、

標高5300mのベースキャンプではこれが85%~87%になる。

山頂ではこの血中酸素濃度値が更に低くなるとされ、それを補うために呼吸が早くなる。

地上で毎分20~30回の呼吸回数がデスゾーンでは80~90回に上昇すると言われている。(参考:wiki(英語)

単純に呼吸数が多くなり、呼吸をしているだけで疲労する。

内蔵機能も著しく低下し、消化不良を起こす。

・極寒

標高が高くなればなるほど気温が下がっていくことはよく知られている。

東京よりも富士山頂の方が圧倒的に気温が低い。

標高が100m高くなると、気温が0.6℃下がると言われている。従って標高8000m以上では常にマイナス気温となる。

エベレスト山頂付近の気温はMount Everest Weather Forecastから分かるが、常にマイナス15°より低い。

あまりに気温の低いところに滞在すると人間の体は寒さに対して防衛する

骨まで凍るような寒さの中では、生命維持に不可欠な器官をあたため機能させるために全血液がそこへ集中するので、「四肢が他の部位を守るためにダメージを受ける

末梢への血流が減少すると、手脚の動きが鈍くなる。長時間外にいると体温は低下し始め、代謝も下がり、精神錯乱を引き起こす。
(参考:サイト

血液が体の重要な部分に集中していくために、末端である手足の指が凍傷になりやすくなる。

当然、長時間この状態が続けば凍傷の範囲は広くなり、もちろん死に至る。

・要因が複合する

薄い酸素による疲労、極寒による体力消耗、内臓器官能力低下の養分の摂取不良など複数の要因が重なり総じてデスゾーンでは生命維持が困難になる。

山頂を目指す人は酸素ボンベを背負い、高所用スーツを着込む
【写真】山頂を目指す人は酸素ボンベを背負い、高所用スーツを着込む

エベレスト山頂を目指す登山者たちは、これらを防ぐために酸素ボンベを背負い、保温性の高いジャケットスーツを着込んで、8848mの頂を目指すのである。

遺体の回収は不可能

先に述べた要因が重なり、デスゾーンで命を落とす登山者も多い。

エベレストの登山の致死率は1990年代から低下しているが、現在でもおよそ1%前後ある。

ことデスゾーンで死亡した場合は遺体の回収が困難となる。

主な理由は2つ

・遺体の重量と大きさ

・ヘリコプター使用不可


・遺体は人間である

デスゾーンで人が亡くなった場合、後で説明するがヘリコプターは使えないため、遺体を回収するのは人である。

成人の場合、体重は50㎏以上と考えてよい。また高所用の装備を身に着けている場合は更にその装備の分が重くなる。

自分の生命を維持するので精いっぱいであるデスゾーンで、重さ50㎏を追加で運ぶことは死を意味する。

海辺で50㎏の友人を背負うのであれば全く問題ないだろう。

しかしデスゾーンでは状況が違う。50㎏の重さを自分に負担させることは非常に危険。

これがよくわかるエピソードが2006年のエベレスト登山で起こった。


イギリスの登山家であるディビット・シャープが標高8500m付近で身動きできなくなった、そして彼の前を多くの人、およそ40人が通り過ぎた、誰一人彼を助けることができず、デビット・シャープは亡くなってしまった。

デスゾーンで自ら動けなくなったも人の救出は非常に困難。


またデスゾーンから人を運ぶのがいかに大変かわかるエピソードもある。

やはり2006年エベレスト登山中山頂近くで遭難したリンカーン・ホールはシェルパなど11人の協力で標高8700mから生還した

このリンカーン・ホールの下山に関して11人の人が関わっていることから人間一人をベースキャンプまで下すのに必要な労力がうかがえる。

そして、このエピソードからデスゾーンから人を移動するのがどれだけ困難であるかが分かる

・ヘリコプターは使えない

人の手で運ぶのが無理であれば、ヘリコプターで遺体を搬送すればよいではないかと思うかもしれない。

しかしデスゾーンではヘリコプターを飛ばすことが難しいのである。

空気が薄いため、ヘリコプターの浮力が得られないというのが要因。

ベースキャンプヘリコプター
【写真】ベースキャンプ付近に墜落したヘリコプター

エベレストでヘリコプターが何とかアクセスできるのが標高6400mのキャンプ2までである。

これはウィキペディアのヘリコプターからの引用でも分かる。

高度が高い山岳地(4000 – 5000m位が限界)などでのホバリングは、空気が薄いため揚力を得るのが困難で、高度な操縦技量が要求される。したがってエベレスト山などの高山にはヘリコプターでの支援は望めない。

標高8000m以上のデスゾーンにはヘリコプターは到底到達できないということになる。


余談ではあるが、エベレスト山頂にヘリコプターが着陸したという記録はある。

2005年5月14日 – (航空機による山頂への初着陸) – ディディエ・デルサーユ(ユーロコプター社所属パイロット)が操縦するヘリコプターAS350 B3が山頂に数分間にわたり着地。同時に航空機による世界最高高度への着陸記録も達成した(参考:ユーロコプター エキュレイユ

これはあくまでも世界記録。


以上ヘリコプターは使えず、人力で遺体を下山を試みても非常に労力がかかり危険ということで遺体は放置されるのである。

有名な遺体

エベレスト山頂付近に長年にわたり放置されている遺体の中で有名なものがいくつかある。

・グリーン・ブーツ Green Boots

緑のブーツを身に着けたインド人登山家の遺体。

1996年に遭難したものであったが、2014年には遺体は登山道から外れたところに移動してしまった。

・眠れる美女 Sleeping Beauty

1998年米国女性として初めて無酸素登頂をしたフランシス・アーセンティーブ、2007年に遺体はエベレストから回収され、埋葬された。

強風にさらされる遺体は吹き飛ばされることもある
【写真】強風にさらされる遺体は吹き飛ばされることもある

回収できる遺体もある

デスゾーンで死んだ登山者の遺体は永遠にその地にとどまるのか?というとそんなこともない。

現在でも200を超える遺体が放置されているとされているが、先のフランシス・アーセンティーブの様に回収されて埋葬されることもある。

日本人でも女性2人目のエベレスト登頂者であった難波康子氏の遺体は、1996年の翌年に回収され埋葬された。

エベレストベースキャンプに向かう途中には亡くなった人の慰霊碑がある
【写真】エベレストベースキャンプに向かう途中には亡くなった人の慰霊碑がある

2019年にエベレストの大規模な清掃が行われ、ゴミ10トン、4人の遺体も回収された。

しかし回収された4人の遺体は風化が激しく、特定が困難な状況だという。(参考:リンク

まとめ

標高8000mを優に超えるエベレスト山頂付近はデスゾーンと呼ばれる、滞在するだけで死に近づく領域である

ここで亡くなる登山者も少なくない、そして亡くなった人の遺体を回収するのは非常に難しい

回収できない遺体はそのまま放置されている

<関連リンク>
【エベレスト登山】エベレスト山頂付近の遺体はなぜ回収できないのか。
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