タイには「ピックアップトラック」という小さい家庭用のトラックが頻繁に走っている。
小さいと言っても自転車ならば十分に乗せられる大きさである。
もしかして、自転車ごとヒッチハイクができる?と思い、自転車を漕いで、ヒッチハイクに向く良い場所を発見し、路上に立ってみた。
地名を書くダンボールはなかったので腕を上げ親指を立てた。
10分もせずに、一台の緑色の車が少し通り過ぎた所で止まる。
明らかに普通車でかなり年代ものに見える。
「いや、さすがにそれはちょっと無理じゃ」止まって貰ったので車の方に近づく、運転席から少し小太りのおじさんが降りて来た
「どこに行きたいんだ?」
と英語で聞いてくる。次の街の名前を言うと、
「そこまでは行かないけどその手前の街までなら行くよ」
とおじさん。

耳を疑った。「行くよ」って言われても自転車があるのだ。
さすがにこの車には自転車を乗せるスペースはない。
だって普通のセダンだもの。
「いや、無理そうなので違う車を探しますよ」
とおじさんに伝えるが
「私は君を乗せてやりたい」
と言いいながら後ろのトランクを開け始めた、トランクの中は空っぽで思ったより広い。
それを見て自転車が乗りそうな気がしてきた。
「いけるか?」荷物を自転車から全て外し、自転車をトランクに乗せてみた。
半分は飛び出したままだが、載ったと言えば載った。
もちろん蓋は閉まる分けも無く、全開に開きっぱなし、その隙間に荷物を詰める。
「載った!」
と私が、驚き混じりに感激していると、おじさんは「あっちに乗れ」と手で合図をする。
トランクを少し気にかけながら助手席に乗り込んだ。
かなりの年代物の車だ。まずドアを閉めようと思ったら、ものすごく渋く、重い。
内装も素晴らしく年代物であることを物語っている。
スピードメータは円形ではなく、温度計を横にしたような不思議な形をしている、初めて見るメーターだ。
おじさんがギヤをガチャガチャと入れ、車が動き出す、
するとその温度計を横にしたようなメーターにオレンジ色の指針が現れ、スピードを表示する。
車は前に走っているはずなのに、ガタンゴトンと微妙に前後に揺れる、エンジンの音もいつ止まっても不思議じゃないような奇妙な音がしている。
スピードは出ず、後ろから来る車がヒュン、ヒュンと軽快に追い抜いて行く。
「私と、自転車を乗せたのがこの車に負担になっているのでは」とそんな気がする。
「いつ止まるか?、いつ止まるか?」という私の心配とは裏腹に車は無事に次の街に着いた。
おじさんは一仕事終えた後のような満足そうな顔をしている。
タイでのヒッチハイクは思った以上に乗せてもらえた、ピックアップトラックだと私も荷台に乗ることになったのだが、風を切る荷台の乗り心地が良かった。

それに汗だくだったので匂いが車内に充満する心配もないのが良かった。