トルコに入国して最初の夜、どこで寝ようかと悩んだ。
国が変わると眠れるところがいろいろと変わる、
タイではガソリンスタンド、
マレーシアではバス停、
インドではトラックドライバーの寝床
イランでは公園
という具合だ。
だから初めての夜はどこで寝られるのか分からない。
黒海沿岸を走り出してから、昼夜問わず頻繁に雨が降ので
野宿する場所も雨が避けられる軒下などに限られてくるのだ。
しばらくトルコ最初の町ホーパでウロウロと寝られそうなところを探す、
レストランの軒下に寝かせてもらえるか聞いてみるが
「ホテルに行きなさい。」とか
「ホテルのほうが安全だ。」とか
やんわり断られる。
なので先ほど目をつけていた高架線の下へ。
幹線から近いので車の音がうるさいが、
雨は防げるということで、邪魔にならないように
道路わきにシートを広げ、横になる。
トルコ最初の夜である。
高架線の下で眠れば雨もしのげる。
眠りの深さによるのだが、
人が近づいてくると大抵は分かるものである。
今も人が近づいて来るのが、足音と話し声で分かった。
足音と声の感じで複数だ。
大抵の場合「寝たふり」をしていれば
路上に寝ている奴に近づいてこようとする人は少ない、
というかあんまりいない。
しかし、彼らは違った、私を囲むように座り込み
荷物を触りだしたのだ。
(寝たふりのため目は閉じているので物音で判断)
「やばい!」
寝たふりをしていては荷物を持っていかれそうである。
こういうときは「パッ」と目を開けて起き上がる。
と・・・・・・・
街灯の明かりで見えるのはヤバそうなお兄さんが3人。
素直に「ぐわっ、やっべ~」と思う。
まず万が一の逃げ道を考えた、とりあえず道路に飛び出そう。
お兄さんたちが起きた私に向かい話しかけてくる、
ロシア語だ。
トルコなのにロシア語ということは彼らはトルコ人ではない、
ここはグルジアに近いので彼らはグルジア人ということになる。
グルジアはもとソビエトなので、ロシア語も広く話されているのだ。
「グルジア人?」と
私は尋ねる。
グルジアではとてもいい人ばかりに会ったのでグルジア人が
悪いことをするとは思えず、少しほっとした。
その国でいい人ばかりに会うと、その国の人は全部いい人に
思えてくるのだ。
彼らは「そうだ」と言った。
ここでまた少しホッとした。
グルジアで覚えた言葉で、
「グルジアはとてもよかったです」と彼らに言う、
彼らも「そうか、そうか」と頷く。
さらにホッとする。
が・・・・・
彼らの中の一番やばそうな奴が、いきなり何の脈絡もなく
「金をくれ」と言い出した。
ソフト強盗である、いや物乞いか。
彼の仲間も「くれ、くれ」と言い出した。
なので私は落ち着いて、できるだけの言葉を使い、
「もし、お金があれば、ホテルに泊まります、お金がないから私はここで寝ています」と繰り返し説明した。
事実、この時私はトルコのお金を全く持っていない。
そして彼らは「確かにそうだ」と思ったのか、
からかっただけなのか、妙に納得して
立ち去っていってしまった。
「ほっ・・・」
もう来るなよ・・・・と思いつつ私は再び眠りについた。
次に起きたときは全く人の気配に気がつかず、
ライターの火打ち石の音で初めて目が覚めた。
誰かが目の前でライターをつけたのである、
「カチッ、、カチッ、、」という音だ。
「ハッ」と目を開けると、頭の横に人が座っていて
ライターの火で私の顔を照らしていたのだ、
目を覚ました私にはもちろんまぶしい光だったので
手で目を覆い、「なにすんだよ」という感じのしぐさをしてみせる。
相手はひげの生えた中年の男性でさっきの男たちとは違う。
彼は私が起きて、顔を見て、トルコ人ではないと思ったのだろう、
もう一人近くにいた男を呼び寄せる、そいつもこっちにきて
またライターで人の顔を照らすからたまらない。
トルコ語は全く分からないが、彼らはトルコ人らしい。
一方的に話しかけられたが全くわからない、それから
私はツーリストで、日本人ということは相手に伝わったらしい。
しばらく何かを言っていたが、彼らはそれほどしつこくなく離れて
行った。彼らの行き先を見ると、近くに止めたトラックの運転手らしい。
彼らがトラックに乗り込むのが見えた。
時計に目をやると4時とかである。
またウトウトとすると、誰かが体を揺さぶっている・・・・
いつの間にか先ほどのオヤジがまた私の頭のところに座っていて、
なぜか握手を求めてくるのだ、
それに応じると今度はトルコ式?グルジア式?の頬にキスをする
挨拶をしようとする、これは親しい関係の挨拶らしいが
私も「まぁいいだろう」と応じていた。
がそのオヤジは握手した手を離さず、左手で手をなでてきやがった。
はあっ??
そしてまたキスを頬にしようとしてきた。
おかしい、へんだ。
握手している手を私が振りほどくと
開いた手で私の寝袋の下に手を入れてきた、
ゲイの人だ。確信した。
やめろつーの。
「ノウ、ノウ」連発、しかしオヤジも簡単に引き下がらない
手をどうにか私の寝袋の中に入れてこようとする。
おいおい。。
これはあんまり死ぬとか、怪我するとかの恐怖はなかったが
男に触られるは気味が悪いというか気持ち悪い。
しつこく激しく断ったのでなんとかオヤジはあきらめたらしくまた
トラックに戻っていった。
やれやれお客の多い夜だ。
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