山を登っていると「ここで足を踏み外したら死ぬな」とか「落石が直撃したら死ぬな」など思うことがある。
近年、エベレスト登山はルートが確立され、登山期には固定のロープが張られる。技術的な難易度はそれほどではないがふとしたところで「死ぬかもしれない」と感じることがある。
今回はエベレストのノーマルルート南東稜(ネパール側)からの登山体験を通じて「死ぬかもしれない」と考えるのはどんな時かあげてみた。
エベレスト登山で死を感じる瞬間
ベースキャンプ(5300m)から山頂(8848m)に向かう順。
・今にも崩れそうな氷塊の下を通過する時
ベースキャンプのすぐ上部には氷河が崩落しているアイスフォールと呼ばれる箇所がある。ここには大小様々な氷塊が秩序なく置かれ、登山者はその間を縫うように進んでいく。時々不安定な氷塊の下を通過しなければならない。そういう時は「今は崩れるな」と祈るような気持ちで通る。氷塊の崩壊は誰も予測できない、事故にあう確立を減らすには滞在する時間を短くするしかない。
・五段はしごを登る時
氷の滝、アイスフォール内はSPCCと呼ばれるネパール現地ガイドがルートを工作してくれる。
アイスフォールの上部は氷塊が大きくなり、高度の落差も大きくなる。そこで一つのはしごでは超えられない場合、はしごを連結することに。年により連結数は違うが、私の時は5つのはしごの連結があった。
これを登る時、はしごがかなり揺れる。連結部のロープが切れないだろうかと心配になる。高さもあるが、下部にはクレバスも待ち構えていた。
・クレバスにかかったはしごを渡る時
アイスフォールを超えると、「西の谷」と呼ばれる名を持つウェスターンクームを通過。ここもSPCCがルートを工作してくれる。
ウェスタンクームはエベレストをはじめ、その周りの山々に積もった雪が崩れ落ちて堆積している。ここにできるクレバスは大きく、深い。
当然クレバスを渡るためのはしごも長くなる。ここでもはしごの連結が必要で、長いものは3つはしごを連結し、クレバスの上にかける。
はしごなので当然下は丸見え、深いクレバスの底を見ながらはしごを渡る時は慎重になる。ブーツの底についている雪上歩行用のアイゼン(鉄のつめ)がはしご歩行を不安定にさせる。
・高山病の症状が重い時
キャンプ2は標高6400mにある。高度が高くなればなるほど、高山病の症状はひどくなる。
頭痛や吐き気、食欲不振に始まり、咳が止まらなくなることも。肺水腫や、脳浮腫になると命の危険さえある。
自分は重度の高山病にならない補償はない、とにかく水を大量に摂取して高度に体を順応させるしかない。
・氷壁を登っている時
キャンプ2から進むと、ローツェフェイスと呼ばれるエベレストの隣の山の正面を登る。
ここは傾斜の急な斜面が表層には雪や硬い氷で覆われている。ルートが工作されているのでロープ一本に身を任せて進む。
もちろん全体重をかけているときに体を支えているロープが切れたり、ロープを止めているアイススクリューと呼ばれるピンが抜けたりすれば斜面を滑り落ちることになる。
・突風が吹いた時
標高8400mのバルコニーと呼ばれる場所を通過すると南東稜の稜線にでる。ここは両側が切れ落ちており、風が吹き荒れていた。
一方向から吹く風でなく、突然に方向が変わる。強弱も様々。飛ばされないように踏ん張ると、次の瞬間風向きが変わりバランスを崩す。いくらロープに体を結びつけていても怖い。時々伏せるような格好で風を止むのを待った。
・ヒラリーステップ
エベレスト登山では有名すぎるヒラリーステップ。あの初登頂のエドモンド・ヒラリーが最初に切り開いたとされる標高8760mにある約12メートルの岩場。
近年では残置されている新旧のロープが入り乱れている状態。新しいロープに昇降機(ユマール)を取り付けて体を持ち上げていくが、岩の足場が悪い。
氷壁と同様、全体重をロープに委ねてしまうと、万が一ロープが切れた場合が怖い。
・酸素が切れたとき
現代エベレスト登山ではキャンプ3以降酸素ボンベを背負い、それを吸引しながら登山する。
標高8000m空気は地上の約三分の一、ゆっくりと登っていても呼吸が乱れる。しかし酸素を吸引すると、その息苦しさから解放される。
背負った酸素ボンベからゆっくりと酸素を放出していく。酸素が供給されている間はスムーズに動けるが。酸素が終わってしまうととたんに苦しくなってくる。
もし途中で「酸素が完全に終わってしまったら」と想像するとかなり怖い。
まとめ
登山期になるとベースキャンプから山頂までルートが工作され難所がいと言われるノーマルルート。しかしどんなにルートが工作されていても毎年死者がでている。
ほんの僅かな気のゆるみや油断で命を落としてしまうことがあるのは事実である。
もしエベレスト登山を考えている人がいたら決して軽い気持ちで考えてはいけないだろう。
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