一週間程の滞在のつもりが、延びに延びてまだマルタ共和国にいる。
こちらで知り合った日本料理屋の主人がアパートを破格の値で貸してくれたのと、マルタ共和国の路上芸の許可が公式に取得できたのが大きな要因だ。安く滞在でき、公に芸が出来るので条件が揃ってしまった。
毎日同じ場所に出向いていると少なからず顔見知りが出来る。それは近くの店の主人だったり、毎日通りかかる人だったり。
フレディとジョンさんは毎日手品を見に来てくれる常連さんだった。私の手品は毎日同じなのだけど、2人は必ず私のところに来ては、暫くの間手品を見ていく。
フレディは30代のスキンヘッドで大きな刺青が腕に入っている男性で、ジョンさんは81歳の白髪の老人だ。
フレディは仕事が無いらしく、または探してもいないらしい、毎日
「ハイ、チャイニーズ(中国人)、元気か?」
と声を掛けてくる、最初のうちは
「私は中国人じゃなくて日本人だよ」
と訂正していたのだけど、しつこく毎日繰り返えすので、これがフレディ流の挨拶なのかと思うようにした。フレディの中では中国人も日本人も一緒なのだ。
フレディの挨拶にはもう一種類あって、殆どが
「ハイ、チャイニーズ」
なのだけど
「スーパー5を買ったか?」
と言うのもある、全く何のことだか分からなかったけど、後々「スーパー5」というのはナンバーくじだということが分かった。
フレディはスキンヘッドで片腕には鬼のような顔が3つ、もう片方にはバラと鷲の刺青が入っている。日本だったら恐ろしくて近づけないだろう。
手品をしている時にフレディが「ハイ!」とやってくると見ている人が時々立ち去ってしまうほど。
しかし話をしてみると、子供の様な純粋な心の持ち主で怖いと思ったことはなかった。
ジョンさんも毎日やって来た。午前中の散歩の時間と午後の散歩の時間には必ず立ち寄ってくれて
「今日の調子はどうだ?」
と声を掛けてくれる。その昔日本の鹿児島に行ったことがあるらしくその話をよくしてくれた。
なかなか紳士なジョンさんなのだけどある時
「手品のタネを教えてくれないか?」
懇願された。
手品をしている人はタネを教えないのが原則で、私も「タネ」を教えるつもりは無いのだ、これは徹底している。
分かってしまうものはしょうがないけど、こちらから教えることはしない。
しかしジョンさんは引き下がらなかった。
毎日会うので毎日聞かれるのだけど、毎回断り続けている。これもジョンさんとの挨拶みたいなものになっている。
と言うわけで毎日会う二人がいる。全くタイプの違う二人がだけど実は共通点がある、それはそれは二人ともどう見ても「暇」と言うところだ。
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