「さぁ、走るぞ!」と気力だけは十分だ。
しかし土を固めたガタガタの舗装されていない道ではスピードは出ない。
景色は水田が果てしなく視界の限り広がって、道路脇には洪水が起きたのかと思うような水溜りが続く。
時々悪い道が続くのかと諦めかけていると気まぐれに舗装道になったりした。
昼近く、休憩のため道端の小さな店でかき氷300リアル(9円)を食べていると、同じくその店で休んでいた若い女性に話しかけられた。
彼女はモニスタといい英語を話す。「英語が話せるが、なぜか?」と聞くとこの近くで英語の先生をしているらしい。
モニスタが
「もし、時間があれば学校に来ないか?」
と誘ってくれる。
急ぐ理由もなかったので、彼女に付いて学校へ行ってみる。
学校と言っても中学、高校の様な学校ではなく、貧しくて学校に通えない子供達に英語を教えている学校だった。
校舎と呼ばれるものはなく、少し広めの民家に椅子と机を並べ、正面に黒板を取り付けてそこを教室として使っているようだ。
この学校は「L-CDI」と言うNGO団体が運営していて、カンボジア全土にあると言っていた。
「LCDI」は「Leadership & Character Development Institute」頭文字を取ったもので、創始者はマレーシア人だと聞いた。
先生5人、マネージャー1人で30人の生徒達と寝泊まりを共にし勉強している。基本的に英語のクラスだけで午前、英語、午後、英語、その間にミーティング時間や、レクレーションプログラムが組まれている。
マウア先生の授業を見学させてもらったが、黒板に書くチョークがはじけ飛んでしまうほど、力強く、口調は熱い。
熱心な先生に対して、生徒達の学ぼうとする姿勢も真剣だった。
質問はよくするし、先生が質問すると皆よく手を挙げて発言する。自分が受けて来た授業でこんなに真剣な授業はなかったのじゃないか。
生徒達の年齢層は10代から20代前半と幅が広く、年上の子が年下の子の面倒をよく見ている。
食事も当番制で自分達で調理しまかなっている。
学費、食費や食料はある人が払い、ない人はその分のお米などを持ってくるという方法。
完全に自立型の学校だ。
先生も若い、なぜならこの学校の卒業生がすぐに先生として各地に散っていくからだ。
ほんの数十年前までポルポト政権による大量虐殺が行われ、知識人が次々と殺されて指針を失ったかの様に見えたカンボジアだが、ここに新たに力強い芽が育ちつつある。荒廃した地にすくすくと成長する木なのだ。
「この国はまだこれから、カンボジアの未来は明るい」と思いながらLCDIを後にした。