沈没

旅行者が一つの場所に長期滞在することを「沈没」と言うらしいが、この「沈没」は船が水の中に沈むほうの沈没だ。

ベナレスを出航してから、ほんの2日目に沈没を経験することになった。

先日の経験から夜船を走らせるのは「危険」であるということが嫌と言うほど思い知らされたので今日は暗くなる前に船を止めることにした。

岸に着岸すると興味津々のインド人がどこからともなく寄ってきてしまうので、河岸から10~15m位離れた場所に大きな石に紐をつけたアンカーを投げ込み、船を固定して寝ることにした。こうすれば、誰も近づいて来られないので安心だ。

昼間船を漕いでいるせいか、よく眠れる。夜中に一度目を覚まし、頭上に数え切れないほどの星が煌いているのを見て「星空が綺麗だな」と思った。横に停泊しているケンジ君達の船が少々傾いている気がしたが、「ユウジ君に比べてケンジ君の方が重いのだろう」と気にはしたものの、口に出して言うこともなく、再び眠りに落ちた。

どのくらい経っただろうか、ミクちゃんの

「なんか水の音がする」

という言葉で目を覚ます。寝ぼけていて「近くに小川があるんじゃないのか?」と思ったが、よく考えると「おかしい」河の真ん中に寝ているのに小川の音がするわけがない。

確かに耳を澄ますと水がチョロチョロと流れる音がしている。誰かがトイレをしている時も似た様な音がする。短ければ誰かがトイレをしている音なのだが、不思議とその音はずっと続いていて、皆が次々と起きだした、誰もトイレに行ってはいない。

「一体何の音だ?」

暗闇で首をかしげていると、ケンジ君が大きな声を上げた。

「うわっ、何これ、水がはいってきてとう!」

福岡出身のケンジ君が方言丸出しで叫んでいる、何のことだか分からないけど船に水が入っているようだ。続けてケンジ君が

「そっちの船にいってよか?」

と律儀に許可を求めケンジ君がこちらの船に乗り込んだ。(もし、「やだ」と言ったら彼は沈没船に残ったのだろうか?後に思い出すと面白い。)

「ええっ、何が起こっている?」

と訊ねる間もなく、船が「ブクブクッ」と暗い川の中に消えて行った。

ホント一瞬の出来事だった。ケンジ君が「水が・・・」といってから30秒も経っていないと思う。

ユウジ君も同様にこっちの船に乗り移っていが、脱出が少し遅れ河に落ち、全身水浸し。

「まじかよ・・・・」

と沈んでしまった船があった場所を見て思う、夢であって欲しいがずぶぬれのユウジ君からほとばしる水滴が冷たい。

時計は朝の4時、辺りはまだ完全に真っ暗だ。

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