「大道芸人」というと男性をイメージし勝ちだが、女性の大道芸人も稀にいる。
今まで何度か道で芸をする女性に会った。多いのは楽器の演奏だったり、銅像のように動かない芸だったりする。時に路面に絵を描いている女性もいた。
しかし滅多に会わないのが、一輪車を乗り回しその上でジャグリングをするタイプの女性だ。
少し離れた広場に人が集まり、音楽が流れ、笑い声にまじり拍手が聞こえてくる。
同じ場所で芸をしていると、大抵周りにいる芸人とは顔見知りになるので、この音楽は誰の演奏で、この曲は誰の芸だと分かるようになる。
しかし今、人を集めている方から聞こえてくるのは聞いたこともない曲だ。夏休みなのでまた新しい芸人がやって来たのか？それにしても拍手の起こる回数が多い。
拍手の多い芸は観客をそれだけ沸かせているということだ。逆に拍手がない芸はイマイチということになる。そう考えると拍手は路上の芸がウケテいるかを見極める簡単な評価ともとれる。
私はひと段落ついたので閉まっている店のシャッター前に腰を下ろす。しばらく休んでいると近づいて来た女性に笑顔と共に「チャオ」と話掛けられた。
こちらも「チャオ」と返事をしながら顔を上げる。目の前に立っている女性を見て「さっきの芸はこの人か？」と咄嗟に思った。
理由は身に着けた服装などが道行く人と違ったこと、また初対面なのにとても人なつっこいこと。人に対しての警戒心というものが感じられない。
これは不思議なもので路上の芸をする人が持っている言葉で説明できない独特の雰囲気みたいなものだ。
恐らく路上の芸人は人見知りなどしていられないし、自らを路上で人目に晒す人達なので、寛容性みたいな、何だろう一種独特のオープンマインドな雰囲気がある。
（余談だが長期旅行をしている人もオープンな人が多い、しかしバックパッカーの場合はボラレたり、だまされたりしないように警戒心も少なからず混じっている気がする）
「音も使わない不思議な芸ね」
と女性が言う。褒められたのかよく分からずに「ありがとう」と言いながら、私は
「さっきの人だかりはあなたですか？」
と聞き返す。
「そうよ」
と彼女。話しかけられた瞬間に路上で何かする人か思ったが的中していた。さっきの人だかりは彼女が作っていたのた。女性で「いわゆる大道芸系」の芸をするとは驚いた。
彼女はエレーナさんと言ってイタリア人であるが旅行が好きで世界を旅行しながら芸をしているのだとか。インドも行ったことがあるといい、ここ数年は南米が気に入っていて、ブラジルにもう長いこと住んでいるのだそうだ。
もともとは劇団で役者をしていたが、路上で人を笑わすことに魅力を感じ、それで路上で芸をするようになったとのこと。
エレーナさんの芸は役者をしていたというだけあり、体を使い、表現をコミカルに演じて客を笑いを誘う。
ふとヨーロッパの街角で見かける大道芸。女性が元気よく演じ、観客を沸かせていたら、それはエレーナさんかもしれない。
