初登頂から60周年、2000年代に入り、年々登山者が増加傾向にあるエベレスト。
登山シーズンになると山頂まで固定ロープが張られ、技術的にはそれほど難しくなくなったとはいえ、登山中に命を落とす人もいる。
標高8000m以下で死者が出た場合は遺体をベースキャンプまで降ろすことができるが、それ以上標高の高いところで亡くなった場合、遺体はそのまま放置される。
その数は実に200体を超えるという。
No one knows exactly how many bodies remain on Mount Everest today, but there are certainly more than 200 誰もエベレストに残されえた遺体の正確な数は分からないが、確実に200体以上はあるだろう。
今回はなぜ遺体は放置されたままになっているかを考える。
![【写真】エベレストの遺体はなぜ回収できないのか。](https://feel-the-earth.com/wp/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
標高8000m以上はデスゾーン
標高8000m以上はデスゾーンといわれる滞在しているだけで死に近づいていく領域。
デスゾーンとは、人間が生存できないほど酸素濃度が低い高所の領域を指す登山用語。 標高が8,000mでは、空気中の酸素濃度は地上の約3分の1となる。 この領域をヒマラヤ山脈の8000メートル峰に挑戦する登山家がデスゾーンと呼んでいる。 デスゾーンでは人体は高所順応せず、酸素が補充されるよりも早く酸素の蓄えを消費する。
引用wikipediaデスゾーンより
デスゾーンでは酸素の薄さから人間の生命活動が大きく制限される。
このような領域では自分自身の行動にさえ制限が出てくる、この領域では余分な行動は命取りとなるのだ。
遺体は重い
エベレスト登山では個人が自分の酸素や食料を背負っている。その上に人の遺体の重量を負担すると文字通り「命取り」の危険がある。
ただでさえデスゾーンで地上のような行動ができない中、自分の荷物そしてさらに遺体を担ぎ下ろせるわけがない。
人間の遺体は少なくとも50kg以上、さらに高所に備えての装備やブーツ、衣類も重い。それほどの重量のものを体に負担させるのはかなり難しい。
ソリで引いて下せばよいという意見もあるだろうが、斜面がいつもゆるい傾斜ではない。こと頂上直下のヒラリーステップ付近は急な岩稜となっていてとてもソリが使える環境ではない。
![【写真】頂上直下の岩稜ヒラリーステップ。](https://feel-the-earth.com/wp/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
話はそれるが、2006年デイヴィッド・シャープはヒラリーステップ付近で動けなくなった。助けを求めたが誰一人彼を担ぎ出せる者がおらず、結果彼は亡くなってしまった。
デイヴィッド・シャープについて詳しくはwikipediaデイヴィッド・シャープを参照。
Wikipedeiaデイヴィッド・シャープからの引用になるが
デイヴィッドに酸素を与えて彼を動かそうと、繰り返し、おそらく1時間は、試みた。しかしデイヴィッドを独りで立ち上がらせるどころか肩につかまらせることすら出来ず、泣きながらダワ(シェルパ)も彼を置き去りにした。シェルパが2人いてもその先の険しい箇所を下山させることは不可能だっただろう…」という状況だったという。
下山中に瀕死の者を救助することは登攀中の救助よりも遙かに労力を要する
このようにまだ生存している人物の救出でさえ困難な場所なのである。
ヘリコプターは使えない
「人力での遺体回収が困難ならばヘリコプターを使えばよいではないかと考える人がいるだろう。
しかし標高8000mを超える薄い空気の中ではヘリコプターは浮力を失うことを忘れてはならない。
以下wikipediaヘリコプターからの引用である。
高度が高い山岳地(4000~5000m位が限界)などでのホバリングは、空気が薄いため揚力を得るのが困難で、高度な操縦技量が要求される。したがってエベレスト登山にはヘリコプターでの支援は望めない。
近年世界最高齢でエベレストに登頂した三浦雄一郎氏がキャンプ2からヘリコプターで下山して話題になった。
このキャンプ2は標高6000m付近である。ここへもヘリコプターが到達するのも珍しいことである。
現に標高5300付近のエベレストベースキャンプには浮力を失い墜落したヘリコプターの残骸が2機ある。
![【写真】ベースキャンプ付近に墜落したヘリコプター](https://feel-the-earth.com/wp/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
以上の理由でヘリコプターによる遺体回収はほぼ不可能といってよい。
腐らない遺体
私達が生活する標高で遺体が放置されることがあれば、気温によるがすぐに腐敗が始まるだろう。
しかしエベレスト、デスゾーンに取り残された遺体は腐敗が進まず、そこに留まり続ける。それはエベレスト山頂付近の気温の低さが関係している。
Explorewebによるとエベレスト山頂付近の平均気温はー20℃からー35℃と低い。
これは家庭用冷蔵庫よりさらに低い温度。つまり遺体は一年中冷凍状態にあるといってもよい。
仮にエベレスト山頂付近の気温が高く、遺体の腐敗が進めば、やがて骨だけになるかもしれない。ところが実際にはエベレスト高所の遺体は何年もの間腐敗が進まずにその姿を残している。
白骨化すれば遺骨として回収できる可能性もあるが、これも望めないというわけである。
![【写真】エベレスト山頂付近は冷凍庫より低い気温。](https://feel-the-earth.com/wp/wp-content/themes/the-thor/img/dummy.gif)
まとめると
エベレストには200体以上もの遺体が取り残されているといわれている。
クレバス(氷の割れ目)や雪崩に埋もれてしまった人などを含めてであるが、山頂付近の遺体は目視できるにもかかわらず放置された状態になっている。
人間の生命活動が制限されるデスゾーンにおいては人力よる回収はもちろんヘリコプターによる遺体回収作業もできない。
気温の低い標高8000m以上では遺体は腐敗せずそこに留まり続けるのである。
<関連リンク>
遺体回収不可能!?死の領域、エベレストデスゾーンとは
【エベレスト登山】常識では考えられない、遺体が放置される場所。
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Death in clouds BBC(英語)
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