ドゥブロブニクで費やす日数が長くなると少しづつだか知り合いが増え、顔を合わせると言葉を交わすようになる。
今日は印象に残った人達を紹介しよう。
まずはいつも城門のところでギターを奏でている、クルノさん。中世の衣装に身を包みエレキギターを弾くというアンバランスだが、ドブロブニクの町が中世の趣があるので、よくマッチしている。
ギターは声を出して歌うタイプではなく、楽器だけの演奏。首にハーモニカ、足にタンバリンを装着しギターに合わせてそれらを鳴らす。
次はニコラさん。よく喋る彼とはやはり路上で知り合った。僅かな時間しか芸を見ていないのにもかかわらず
「よし、今夜バーに来てくれ」
と誘いを受けた。
「いいのか、路上の芸人バーに引っ張り込んで」
と半信半疑だったが言われた店を訪れた。
ニコラさんの教えてくれたバーは生演奏を聞かせるジャズバーで彼ははそこで大きなウッドベースを奏でていた。最初は「こんなところで見せる芸じゃない」と乗り気でなかったが、ニコラの口車に乗せられて毎日通うようになってしまった。

デニスさんはその隣のバーの経営者。隣のバーで芸をしているの見て「うちでもやってくれ」と言われて「はぁ」と気のない返事で始めたのだが、何だかこちらも毎日お邪魔することになった。
デニスさんはクロアチアでも珍しいイスラム教の信者で、その手厚いおもてなしの精神は確かにイスラム教信者のそれだった。生演奏のバーは連日大入りだったが、デニスさんの店はいつもお客がまばらだったが、デニスさんはいつも両手を広げて歓迎してくれた。
二つの店に顔を出して芸をして戻ると、大抵深夜を回った。
5月の上旬は日本のゴールデンウィークだったので、日本人の観光客にも出会った。通常路上で芸をしている人に話しかけてくる日本人は稀であるが、ドブロブニクでは時々その稀な人が現れた。
話しかけてくる人は海外在住かまたは長期滞在している人が多いのだが、ゴールデンウィーク期間中は短期旅行者とも話す機会に恵まれる。個人、カップルで旅行している人や路上でギターを弾くちゃるさんという日本人の若者にもあった。
日本を離れて長いので、話がかみ合わないかと少し怖かったがそんなことはない、久しぶりに出会った短期の旅行者との会話は気持ちを日本に引き戻してくれる。
いつも前を通ると「ジェラートがいるか?」と訊ねてくる店員、毎日顔を合わせるレストランの勧誘の男性。ドブロブニクは旅行者にとっては観光し去って行く街、しかしそこには城壁に囲まれて暮らす人々がいる。

流れていく観光者、留まっている地元の人との出会いが面白く、滞在時間が長くなると更に滞在してしまいたくなる。
後ろ髪を強烈に引かれる思いだがそろそろドブロブニクを発つとしよう。