手漕ぎで大西洋横断を簡単にまとめたシリーズ、その5となります。
前回はイタリアのジェノバで船を漕ぐ練習、機器の取り扱いなどについて学び、いよいよ出航地であるポルトガルのラゴスに移動したというところからです。
いよいよ出航
ポルトガルに船体が到着し、船体を着水させ港に停泊させます。ここで問題がなかったらいよいよ出発となるわけです。ジェノバに比べるとラゴスの港は小さめでアットホームな港に感じました。
ラゴスの港に数日滞在して2023年1月14日に出発となりました。まずこのラゴスを出発して少し南下した大西洋上にあるスペインの島、カナリア諸島を目指します。
海のコンディションのよい日を出発に選んだので港から順調に大西洋に進みます。
港を出て陸地が遠ざかっていきます。
早速の船酔い
初日は漕ぐのに集中していたのでそれほど船酔いを感じませんでした、海の状態は穏やかで「この海の様子が続けばよいな」と思ったものです。が自然はそんなに甘くありません、翌日から早速波が荒くなります。
食欲は全くなくなり固形物は食べられなくなります。この間はジュース、少し食欲が出てきたところでリンゴをかじります。
バッテリーの電圧が低下
出航してからおよそ6日目で船酔いがよくなってきました。しかし新たに大問題が生じます。通常12Vあるはずのバッテリーの電圧が戻らなくなりました。
ジェノバでの練習中ではソーラーパネルからバッテリーは充電され常に電圧を維持していたのですが、ここに来て突然電圧低下。原因が分かりません、ただソーラーパネルからの電気Aは流れてきているので、どうもそれが蓄電されないようです。となるとやはりバッテリーの問題と推測。
手漕ぎボートではバッテリーが大きな役割を果たしています。現在どこにいるかというGPS装置から、海水を真水に変える装置、また船の明かりや、他の船との衝突を回避するためのAISの装置も蓄電器からの電気で作動しています。
このバッテリーの電圧が低下するとそれらの機器が全く使えなくなるのでかなり大変な状況と言えます。
幸い日中は太陽が昇るとソーラーパネルから直接携帯電話や小型のGPSは充電ができたので、何とか現在地がつかめています。
急遽モロッコに寄港
当初目指していたカナリア諸島まではまだ距離があるので、急遽最も近いモロッコに寄港することを決めます。
カナリア諸島から進路を変更してモロッコへの着岸を目指して進みます。
ところがモロッコの陸地が近いところに南に流れる強い海流がありなかなか岸に寄ることができません。更に陸が近いので潮の干潮が関与してきます。陸に向かって漕いでいても、ある時間になると引き潮で陸から離れてしまうということになります。
ここで大苦戦を強いられます。更に翌日今まではUSBの充電だけはできていたのですが、バッテリーの電圧が更に低下、簡単なスマートフォンも充電ができない状況になります。GPSの電源も確保できないと自分が一体どこにいるのか分からないということになります。
一応は万が一に備えてポータブルの充電器があるので、最低の電源確保のためにそれらのパネルを出してGPSを充電します。
これで太陽が出ていれば直接GPSの充電を確保します。しかし大変困った状況に変わりはありません、海流と干潮で陸に近づけない。
「これは困った」
突然現れた漁船
電源がないと無線も使えません、これは困ったと甲板に座り込んでいると、突然、船の先頭方向からエンジンの音が聞こえました。
船の構造上、甲板に出ていると船首方向は見えないのです。しかし「ブルルッン」という音が確かに聞こえた。
「何??」
ここは岸からまだ離れた沖合です。車の音が聞こえるわけがありません、立ち上がり船首の方を振り向くと、20メートルくらいの漁船が船のすぐ側、3メートルくらいのところに停泊しています。見ると船から興味深々なのか船員たちが顔を出してこちらを見てニコニコしています。船の様子から漁船の様です。
モロッコはアラビア語なので分かりませんが「ハロー」と話しかけられます。無線が使えないので声でやり取りするしかないのですが、
「プロブレム?」
と聞かれたので
「エレクトリックシティ(電気)プロブレム!」
と叫び「ラバトに行きたいのだけど」と伝えると
「オーケー」と言ってロープを投げてくれました。船首から出ているロープにつなぐと船は勢いよく海面を進みだしました。
というところで本日もオチもなく終了です。
<関連リンク>
手漕ぎ大西洋横断 大まかなストーリその4
手漕ぎ大西洋横断 大まかなストーリその3
手漕ぎ大西洋横断 大まかなストーリその1
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