15 イタリア回遊編

日本人が嫌いだ

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近づいてきた男は正面に立ち、唐突に

「マルタ人はチャイニーズが大嫌いだ」

と吐き捨てる様に言った。

あまりに突然なので「えっ?」となったが言葉はハッキリと聞き取れた。どう対応すればよいのか分からない「何を言い出すんだ」という意味で「はっ?」という表情を作った。これはケンカを売ってきているのか?

男は私の顔色など関係ないという風にそれだけ言うとクルリと方向を変えて歩き去った。

「嫌い、嫌い」と思っていても口に出して言わないのが普通だろう、影で言う人はいるが、面と向かって見ず知らずの人間に言うのはケンカになってもしょうがない。友人や知り合い同士が言い合うのとは違う。

しかし決定的な間違いがある、私は中国人ではない。

男は「マルタ人は中国人が嫌いだ」と言ったが、「それは中国人に言うべきだろう、私を中国人だと思ったのなら大きな間違いだ」

本当はそんなことはどうでも良かった。しかし暴言を吐いた男に「あんたは基本的なところを間違えているんだぜ」と言ってやりたかっただけなのだ。気持ち的に一矢報いたかったのだ。

男を追いかけて、横に並び覗き込むような格好をして

「私は日本人です」

と言い放つ。歳は50代、がっちりした体つきで、しまった筋肉質の腕が灰色のタンクトップから出ている。短髪で白髪、顔は無表情だ、どこかの軍隊の人かも知れない、そういう雰囲気がある。

強そうだ、しかしある程度自分のケンカの腕に自信がないと当人を目の前にしてこんな発言は出来ない。なぜならケンカになる可能性が十分にある。私は自分からケンカを起こそうと思わないが、血の気の多い人なら殴りかかられる可能性もなくはない。

しばらく間があってから

「日本人は嫌いだ」

と男は正面を向いたまま、目も合わせずに言った。横顔しか見えない、こちらを見ようともしないで歩き続けている。男に歩調を合わせ

「なんで日本人が嫌いなのか?」

と私は逆に質問をした、男は歩き続けながら

「日本人は嫌いだ」

と繰り返した。顔は一切こちらに向けず、淡々と人ごみの中を歩き続けて行く、男と平行に歩きながら

「何故?」

とこちらも食い下がる。「そこまで嫌う理由が知りたい」。男は再び「日本人は嫌いだと」と繰り返したので

「あなたがそう言うなら私もマルタ人が嫌いですとも言える」 と言い男から離れた。男は全く聞く耳を持っていなかったし、聞こうともせず、自分の言葉だけをぶつけていった。本当に私が喧嘩っ早い人間だったら殴り合いになっていたかもしれない。

男が人ごみに紛れて消えていき、私は自転車の所に戻ったああいう人もいるのだ。これが国のトップ同士だったら、どこかの集団のリーダーだったら、戦争や紛争が起こってもおかしくない。どこをどうしたら、聞く耳を持たずに一方的な感情を押し付けられるのか。

幾つもの国を通ってきたが、全く聞く耳を持たない人も珍しい「日本はおかしい」と言われることもあるが、そう言った場合相手はこちらの意見を聞こうとする。しかしさっきの男は話し合いの余地もなかった。

これは推測でしかないけど、中国人というかアジアの顔にやな思い出があるのだろうか。少々現実離れしているが戦争で肉親を殺されたとか。実際に考えられるのはお金を取られたとか、仕事をとられたとか、そんなことが彼の人生の中にあったのだろうか。色々な考えが頭を巡る。

彼の人生に押し入ることが出来ない限り、それらは推測の域を出ない。幸いにして今の時代は一部地域を除いては差別が表面化しないようになってきているが、人々の心の奥底はまだまだ分からない。

正面切って強烈な言葉をぶつけられると、心の中がグラグラと揺れ、思考がグルグルと回る。そして完璧に気分が悪い。

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