手品の人だかりを割って、二人の警察官が私の目の前に現れた。
「なんだ」と思った瞬間、警察官の手が伸びてきて私の顔を殴った。
「おい、なんなんだ!」
と言う暇も与えず、二発目が反対側の頬をはじいた。
こちらに一言も喋らせず、いきなり叩かれることがあるのか。
「私はツーリストで」
といいかけたら三発目がヒットした。
あまりに一方的だ。
それから手品を道具をどこかに投げようとしたので必死でそれを抑えた。
横暴にも程がある。
一旦手がおさまったので
「私はツーリストで何もしていない」
と英語で怒鳴った。警察官がヒンディ語で何かを言ったがそれは分からず「ポリスステーション」という言葉だけ分かった。「とにかくポリスステーションに来い」ということらしい。
言葉も交わさずに一方的に人を殴り倒せる権限がどこの誰にあるのだ。それも、国家の治安を守る警察官が。
この警察官の威圧的な態度だが、見ている観客は何も口を出さない、それは警察がこういうものだと知っているからだ。頬はジンジンする、頭はカッカする、3発も殴れられて冷静でいられるはずがない。
インドでは警察官が庶民に向かって酷い仕打ちをするのを時々目にした。
インド的思考で行けばカースト上位の警察が下位のカーストに言い聞かせるためには暴力も仕方ないというのだろうか。
そうやって、絶対的に警察官に逆らわないように暴力で民を制圧しているのだろうか。
なるべく私は「ツーリスト、部外者」という言葉を使いたくなかったが、今は大きな声で言った。
「私はツーリストだ」と。これは私は「インドのカースト外の人間」で外からこの国に来ている人間だということを主張したかったのだ。
そうしないと警察官はいつまでもその高圧的な態度を改めないだろう。
さっきまで聞く耳を持たなかった警察官がこちらの言葉を待った。それから
「パスポート?」
と聞きなおして来たのでパスポートを出した。これで私が外国人だってことが分かるだろう。
それを見た警察官の態度が目に見えて明らかに変った。
そうなのだ自分達の社会の枠組みでは威張り散らせる警官もその社会の外のものに暴力を振るったとなれば問題だからだ。
連行されて警察署に着いた時にはさっきのまでの威圧的な警察官は態度が180度変っていて
「水を飲むか?」
とこちらの様子を伺ってきた。なんだそりゃ!余計に腹が立つ。それから私は警察署内の一室に連れて行かれた。
部屋に入ると大きな机が置かれて、その向こうに偉そうなオヤジが踏ん反り帰って、テレビを見ている。
どうひいき目に見ても仕事をしているようには見えない。
オヤジは英語が喋れるらしいのでディスクの前で私はことの成り行きを説明した。
オヤジが言うのには私が集めた人の中にスリの被害に遭った人がいて、それで私がグルだと思われたというのだ。
「だからと言っていきなり殴るのはどうなのか?」
と問いただすと
「君をネパール人と間違えたらしい」
と言う、おいおい、ネパール人なら殴ってもいいのかよと、それも酷い話だ。
「とにかくあそこで人を集めてはイカン」とオヤジは言って話は終った。
ずっと座っていた私を殴った警官が「アイムソーリ」と言った、インド人が「ソーリー」と言うのはとても珍しい、ましてやプライドの高い、権威を撒き散らす警官がソーリーと言うのは相当だ。
「まぁいいよ」
と私は答えた。すると、彼らは「お茶を飲むか?とか腹は減っていないか?」とか尋ねてくる、えらい変わり身だ。頭にきていたので腹なんか減っているはずない。
ついでに上司みたいな奴が手品を見せてくれと言ってきた、何なんだこの展開はギャグか。
しかしもうここにはいたくなかったので早々に立ち去る、さっきの警官が付いて来てまた「ソーリー」と言った。
二度目である。言葉だけにしても、インドでは聞かない言葉を、2回も警官から聞いてしまって驚いた。
そしてかれはまたお腹は空いて無いか?聞いてきた「いらない」と強く言ったのに彼は引き下がらず、「少しでも食べてくれ」と言わんばかりで、進めてくる
「サモサはどうか?」
と言うので「分かった、それでいい」と私が言うと「2つか?」と細やかな気遣い、私は「一つで十分」と言った。彼はサモサを買って持ってきてくれ、また「ソーりー」と言った。
3回目だ。3回殴ったからなもう十分だ。もしかして騒ぎたてれば問題になるかもしれない、彼もそれを感じているのだろうか。しかし中国の時といい、警察官はなにかまずいことをするととりあえず食事を勧める、それが詫びの証なのだろう。
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